認知症の人たちがおもてなし「喫茶いばしょ」ウェブ上に開店 実店舗中止も「今だからこそほっとできる場所を」


認知症の人たちが店員となり、誰でも気軽に立ち寄れる憩いの場「喫茶いばしょ」が12日、ウェブ上にオープンした。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東京都大田区でこの日予定していた実際の開店が中止に。しかし、外出もままならない今だからこそ、人と話してほっとできる機会が必要と考えた。実際の開店の見通しは立たないが、月に1回、オンラインで集まれる居場所を作る予定だ。ウェブ上に集まって話すため、離れた場所にいてもインターネットを使ってそれぞれの顔を画面上で見ながら会議などができるシステム「Zoom(ズーム)」を活用した。店が提供するコーヒーは飲めないものの、この日は店員らとつながりのある約30人がウェブ上の店を訪れた。午前10時に店を開いたのは、認知症の症状がある2人の男性店員と、店長を務める女性の「もり」さん。おそろいのエプロンを身に着けてそれぞれの自宅からパソコンを使って参加し、同様の手法でやって来た客を迎えた。店員が注文を取り、店長が実際にコーヒーをいれる様子を生中継するなど、できるだけ喫茶店の雰囲気を楽しんでもらえるようにした。店員を務めた東京都の柿下秋男さん(66)は1976年モントリオール五輪のボート競技に出場した元選手。「認知症になっても夢は実現できる」ことを伝えようと東京オリンピックの聖火ランナーに応募し、都内を走る走者に選ばれていた。喫茶開店に向けては、青果物卸売会社に長年勤め、大田市場(東京)で競りも担当した自身の知識と人脈を生かしたフレッシュジュースの提供を考え、福岡産「あまおう」を使ったイチゴジュースを準備していた。しかし、ウイルス感染拡大の影響でどちらも実現が遠のいてしまった。柿下さんはこの日、自宅にある自作の水彩画を披露したり、客の子どもに声をかけたりして、訪れた人たちとのひとときを楽しんだ。「今まで当たり前だったことが当たり前じゃなくなり、人と会えることのありがたみを感じる。きょうのようなやり方が起爆剤になって良い循環が生まれれば」と笑顔を見せる。一緒に店員を務めた57歳の男性は緊張と楽しみの両方の気持ちでオープンを迎えたという。約2年前に若年性認知症と診断された。普段通うデイサービスは自分と年が離れた高齢者がほとんどのため、「若い人たちとも話せて新鮮だった。またこのような機会があれば呼んでいただければ」と充実した様子で語った。今回の取り組みは都内で診察をしている認知症専門医である、もり店長が発案した。ある認知症の男性が仕事をリタイアした後にみるみる元気をなくした様子を目の当たりにして、認知症の人たちが生きがいを持って働ける場所をつくりたいと構想を温めてきた。レンタルスペースなどを使って月1回予定していた実際の営業は当面難しいため、ウェブ上の集まりを同じペースで続けたいという。もり店長は「人と人との距離が開いてしまう今だからこそ、ほっとできる場所が必要と思った。楽しい時間を過ごせるように、より良いものにしていきたい」と話す。問い合わせ先などの情報はホームページ(http://kissaibasho.jp/)まで。【銭場裕司】

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