要介護1、2のサービス切り離しに現場反発…なぜ? 厚労省が介護保険給付から市町村事業に移行案


介護保険制度の3年に1度の見直しで、厚生労働省の社会保障審議会が要介護1、2の訪問・通所介護を介護保険制度の給付から外し、市区町村の事業への移行を検討していることについて、介護関係者や識者から批判が出ている。専門資格のない人の介護で、利用者の状態悪化につながる恐れがあるからだ。自治体側の受け皿も整っていない。(井上峻輔)「安上がりの制度に移行し、給付を削減するのは言語道断だ」。「認知症の人と家族の会」の花俣ふみ代・副代表理事はこう指摘した。花俣さんは、介護制度見直しを議論する審議会の委員を務めている。厚労省は10月末、審議会に利用者の負担増や給付抑制につながる論点を提示。この中に、要介護1、2の訪問・通所介護サービスを市区町村が行う「介護予防・日常生活支援総合事業」(総合事業)に移行する検討を盛り込んだ。12月にとりまとめを行う。現場からは「要介護1、2の段階で専門的介護を受けられるかが、その後の要介護度の進行に関わる」(埼玉県北部のケアマネジャー)と批判が出ている。要介護度は「要支援1、2」「要介護1〜5」の7段階に分かれている。要介護1、2とは、日常生活を送る上で部分的な介護が必要な状態。要介護の人は、全国一律の運営基準で介護福祉士らが提供するサービスを受けている。要介護1、2の人は現在、訪問介護や通所介護のサービスを受ける際、「介護給付」と呼ばれ、全国一律の運営基準で介護福祉士らが提供するサービスを利用している。総合事業は、市区町村が運営基準や報酬を独自に決められ、予算に制限があるのが特徴。専門資格のない地域住民やボランティアがサービスを提供することも。審議会が移行を検討する背景には、基準を緩和して報酬を低くすることができるため、約20年で3倍以上に膨らんだ介護保険費用を少しでも抑えられるとの政府の狙いがある。すでに要支援1、2の人が総合事業の対象になっている。市区町村への移行は3年前も検討されたが「多様なサービスの担い手不足」などを理由に見送られた。荒川区の担当者は「ボランティアでは継続的なサービス提供は難しい」と語る。事業者側も総合事業への移行で報酬が抑制されれば「採算が成り立たず撤退する事業者が出るだろう。地域に担い手がいなくなり、サービスが受けられなくなる高齢者が出てくる」(全国老人福祉施設協議会の担当者)と懸念する。淑徳大の結城康博教授(社会保障論)は「要支援で総合事業が失敗したのは明白だ。中長期的に見ると、要介護1、2に重点的にお金をかけて要介護3以上を増やさない方が介護費用の抑制につながる。政府は発想の転換が必要だ」と話した。◇高齢者の介護を社会全体で支える制度として2000年にスタート。原則65歳以上の要介護認定を受けた人が、在宅や施設でのサービスを利用できる。費用は40歳以上が支払う保険料、国と地方の公費、利用者の自己負担で賄う。急激な高齢化で利用者は制度開始時の3倍を超え、介護費用の総額は3.7倍の13兆3000億円(22年度予算)まで膨らんだ。【関連記事】

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