高い患者との密着度 リハビリ病院、家族との連携に制約


脳卒中患者らの自立支援や介護負担軽減に取り組むリハビリテーション病院が、長引く新型コロナウイルス感染拡大に苦慮している。機能回復訓練が患者との濃厚接触を伴うためで、現場は院内感染予防とのはざまで懸命の模索が続く。「徐々に飲み込めるようになりましたね」。錦海リハビリテーション病院(鳥取県米子市錦海3丁目)の病棟食堂で、フェースシールドで顔を覆った言語聴覚士(ST)の岩田久義さん(44)が、患者の口の中を観察していた。患者は70代の男性。脳梗塞で倒れ、運ばれた急性期病院で一命を取り留めた。ただ、半身まひや嚥下(えんげ)障害などの後遺症があったため、錦海リハ病院へ転院。自宅復帰を目指して神経筋機能の回復訓練に励む。フェースシールドの使用は飛沫(ひまつ)感染予防に欠かせないが、患者に顔を近づけて口の動きや飲み込む力を確認、評価し、訓練に生かすSTには苦労がつきまとう。岩田さんは「光の乱反射や呼吸で曇りガラス状態になり、細部まで見えにくい。声もこもりやすく、患者さんとコミュニケーションを取るのにも神経を使う」と話す。■感染拡大の第1波はリハビリ病院に多くの教訓を残した。大都市圏の病院では院内感染が相次ぎ、入院患者やスタッフら133人が感染した「なみはやリハビリテーション病院」(大阪市)について、大阪府が公表した厚生労働省クラスター(感染者集団)対策班の調査報告書は、感染対策の遅れを指摘した。錦海リハ病院は、院内感染が全国に広がる気配をいち早くキャッチ。手洗い励行を監視するモニタリングや、病棟と通院リハビリのフロアをゾーニング(区域分け)し、双方のスタッフの行き来さえも禁じた。角田賢病院長(53)は、こう明かす。「そもそもリハビリ現場は患者さんとの密着度が高い。3密を避けながら、どう安全に機能低下を招かないよう工夫するのか。今も手探りだ」■移動や入浴といったADL(日常生活動作)を促す作業療法士(OT)や関節、筋肉の動きに関わる理学療法士(PT)もジレンマを抱える。共通の悩みは「面会禁止の影響で、家族と連携する手段が書面や電話、写真に限られてしまったこと」とPTの遠藤美紀さん(37)。病棟の訓練室で機能回復の進行度を家族に確認してもらい、介助方法のこつを指導する従来のやり方はできなくなった。段差などの改善点を指摘するため、スタッフが患者宅を訪ねるのも自粛。試験外泊を含め、在宅復帰に向けた準備に支障が出てきた。OTの北山朋宏リハビリ技術部課長(46)は「退院調整は主に書面や電話。スムーズな退院ができない患者滞留が生じ、退院後のケアも難しくなってきた」と打ち明ける。寝たきりの原因疾患として、脳血管疾患は全国と同様に山陰両県でも上位だ。寝たきりになるリスク回避に重要な役割を果たすリハビリ現場は、社会が移動規制の緩和にかじを切る中、コロナとの闘いの真っただ中に置かれている。

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