復職支援 ネットで診療 メンタル不調者向け、コロナで加速 保険外見直し訴えも


うつ病などのメンタルヘルスで休職・離職した人向けに医療機関が行っている復職支援(リワーク)の現場で、新型コロナウイルス感染防止のため、インターネットを活用したリモート診療の取り組みが進んでいる。コロナ対策に加え、リワーク施設のない地域の休職者らも診療を受けることができ、支援の格差解消にもつながる。ただリモート診療は医療保険が適用されず、関係者は「コロナによる新たな生活様式に向け、国は保険制度を見直すべきだ」と訴える。「画面越しでも話を聞いてもらえた。つらい気持ちを一人で抱えずに済んだ」。千歳病院(千歳市)が今春行ったリワークのリモート診療について、同市のアルバイト男性(43)はこう話す。男性は15年前、勤務先の保育所を突然解雇され、メンタルの不調で働けなくなった。昨年5月、千歳病院の精神科医に勧められてリワークを受診し、今年2月にアルバイトを始めた。ところが新生活に慣れてきた4月下旬、新型コロナでリワークが休止に。感染や景気悪化への不安が募っていた時に、リモート診療を受けることができた。リワークは、休職・離職した人が一定期間、通所して、生活リズムを整えたり、復職に向けた指導を受けたりする精神科デイケア。医師や作業療法士らが、心を上向かせる講話や、前向きな気持ちにつながる軽作業体験を行う。同病院は、通所でのリワーク休止直後に、オンライン会議システムを使ってネットを介した画面越しのリモート診療を開始。約1カ月で延べ140人が利用し、利用者から「生活リズムが崩れなかった」「落ち込まずに済んだ」などの声が寄せられたという。作業療法士の菊地拓実さん(44)は「リワークを休止すると利用者の孤立感や不安感が増し、病状が悪化しかねない。復職も遅れることが懸念された」と振り返る。厚生労働省の2018年全国調査によると、過去1年間にメンタルで1カ月以上休業した労働者がいた事業所は、全体の6・7%。増加傾向といい、リワークの重要性が増すが、関係者によると、リワークが受けられる道内の施設は約20カ所で、札幌圏などに偏っているという。菊地さんは「リモートなら通所が難しい地方の在住者や引きこもりがちな利用者へもリワークを提供できる」と話す。同病院のリモートは、緊急事態宣言緩和で5月下旬に通所リワークを再開したことで現在休止中だが、地方休職者らのために近くリモート診療を本格的に実施する計画だ。ただ精神科デイケアの医療保険は通所が前提で、リモート診療は保険が適用されない。保険分は利用者か診療所が負担しなければならず、リモート普及の足かせになっている。大通公園メンタルクリニック(札幌市中央区)は、新型コロナの感染拡大を受けて4月、仕事に復職した元通所者の1回限りの診療をリモートで始めた。またオンラインで他の診療所と結び、それぞれのスタッフが相互に通所者向けの講話ができる態勢も整えた。だが一定期間、繰り返し受ける必要がある本格的なリモート診療は、保険適用がないため断念した。同クリニックでリワーク部門のソーシャルワーカー主任を務める高沢祐介さん(38)は「国は新しい生活様式を推進しており、保険基準の見直しを進めてほしい。他の診療でもリモートできるものはあるはずだ」と話す。(川崎学)

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