コロナ禍、在宅人工透析に注目 事故リスクで利用低迷も 患者「通院より体の負担軽い」


新型コロナウイルス感染拡大を受け、通院せずに在宅で行う人工透析があらためて注目されている。腎臓病患者が在宅で透析をすることで、回数を増やして毒素による体の負担を軽減できたり、自分の予定に合わせたりすることができる。しかし、事故リスクや患者に知られていないなどの理由で利用は限られており、医師は「生活の質の向上につながる」と選択肢としての検討を呼び掛けている。透析は、血液中にたまる毒素や水分を腎臓に代わって人工的に取り除く。在宅透析は、医療施設で受けるのと同じ方法で血液を腕から体外に取り出して浄化する「在宅血液透析」のほか、腹部のカテーテルから機器で浄化用の透析液を出し入れする「腹膜透析」も行われている。京都市中京区の男性(77)は4月から在宅血液透析を始めた。長さ約4センチの針2本を血管に刺したり、血液を送る管に空気が入らないようにしたりなど、複雑な作業と慎重さが求められる。透析中の血圧の変化にも注意を払う。病院で機器の仕組みを学び、針の刺し方の訓練を受けた。男性は1年半かかったが、若い人なら数カ月で在宅に移行できるという。施設での透析は週3回が一般的だが、男性は在宅で週5回。自分の裁量で回数や時間を増やせる。水分や毒素の量が少ない段階で除去でき、透析患者の多くが悩む貧血の改善や、血圧安定の効果があるといい、「通院で透析を受けていたころより体の負担が軽くなった」。在宅透析は国内では1980年代半ばに普及が始まったが、利用者数は伸びていない。日本透析医学会の調査(2018年)によると、在宅血液透析と腹膜透析の利用者は全体の3%にとどまり、比率は10年前と変わっていない。要因として考えられる一つが、事故のリスク。在宅血液透析は、血管から針が抜けたり、機器がトラブルで停止したりすれば大量出血する恐れがある。医師の指示を守り、感染症防止のため自宅を清潔に保つことも求められる。男性をサポートする京都武田病院(下京区)の武田敏也理事長は「そもそも在宅でできることが患者に広く知られていない」。医療機関の減収になることや、患者を訓練する専門スタッフの不足も一因ではないかという。在宅透析を上手に取り入れることができれば生活の質の向上につながる。通院の時間がかからず、予約制の施設と比べて自分の都合を優先しやすい。腹膜透析は毛細血管に負担が掛かるため8年程度しか利用できないが、就寝中に自動でできる機器もあり、仕事と両立しやすく、海外旅行も可能になる。武田理事長は「患者がそれぞれの生活スタイルに合わせて治療法を選択できることを知ってほしい」と話している。

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