転倒時に柔らかくなる床材 マジック・シールズが開発


素材開発のスタートアップ、マジック・シールズ(浜松市)が高齢者や要介護者の転倒による衝撃を受け止めて柔らかく沈む床材「ころやわ」で市場開拓に乗り出している。歩行時は硬くて転びにくく、転んだ時は衝撃を吸収する構造で骨折などを防ぐ。高齢者の転倒による骨折は国内で年間100万件といわれ、長期のリハビリや寝たきりの原因になりかねない。試験導入などで病院や介護施設の採用を進めている。ころやわは厚さ27ミリメートルの衝撃吸収マットに塩化ビニールのシートをかぶせたもので、既存の床の上に敷いて使う。マットの素材は自動車部品などに使われる耐久性のある樹脂のエラストマーで、内部にハチの巣のように特定の幾何構造をつなげて配置している。平常時は自立して上部を支えるが、大きな力が加わると幾何構造がたわんでクッションの役割を果たす。骨粗しょう症患者の大腿骨は約2200ニュートンの衝撃がかかると骨折するとされる。フローリングの床で成人男性が直立の姿勢から倒れると大腿骨には約3200ニュートンの衝撃がかかるが、ころやわは半分の約1600ニュートンに抑えるという。高齢者の転倒防止策として柔らかいマットを敷くこともできるが、通常の歩行時に足元が不安定になり、かえって転ぶ危険性が大きくなるほか、車椅子も車輪をとられて走行しづらい面がある。ころやわは歩行時や車椅子での走行時には硬さを保ち、支障のないように設計した。同社によると、高齢者の転倒骨折は国内で年間約100万件発生している。完治せず歩行が困難になったり、寝たきりになったりする場合もある。てんかんや、神経細胞の異変によって歩行時のふらつきなどが発生する脊髄小脳変性症の患者も転倒のリスクを抱えている。マジック・シールズは床材の潜在的な需要は大きいとみて、量産による低価格化も進める方針だ。同社は2019年11月の設立で、代表の下村明司氏はヤマハ発動機でバイクの開発に携わっていた。車体が衝撃を吸収する技術の開発で得た経験を生かして起業した。試験導入も含めて、10カ所の医療機関や介護施設で採用されている。現在は施工の状況によって価格は変わるものの、1メートル四方のレンタルで月額標準3000円としている。今後は一般家庭や公共施設、交通機関の内装などでの導入も目指す。3月には東京大学の投資事業会社、東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC、東京・文京)の起業支援プログラム「東大IPC 1stRound」に採択された。資本金は約3000万円。8月にはベンチャーキャピタルや個人投資家から約4000万円を調達し、製品改良や量産化技術の確立、販路開拓を進める。下村氏は「転んで骨折をする高齢者の件数をゼロに近づけたい」として、「ころやわなら要介護の高齢者も自分の足で歩きやすい環境ができるため、病院や介護施設側が見守るための負担も軽減できる」と製品の導入効果を幅広く訴えていく考えだ。(企業報道部 茂野新太)

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