技術立国 関西の大学から 山口哲史さん


■京都に本拠地を置き、京都大学に関わりのあるスタートアップ企業を中心に投資する独立系ベンチャーキャピタル(VC)、みやこキャピタル社長の山口哲史さん(54)。関西から世界に飛び立つ先端技術分野の企業を育てたいと意気込む。関西には多くの大学が集積し、研究開発に日々力を入れている。京大はノーベル賞を受賞した研究者が数多く在籍し、化学や物理、ライフサイエンスの世界では歴史的に知見を持っている。大阪大学はまさにいま新型コロナウイルスで重要さが増している創薬に強く、神戸大学には工学などで高い知見がある。東京にはない特徴だ。京大から認定を受け、2015年から投資ファンドを運営している。日本の進むべき方向として「観光立国」と指摘する声があるが、私は本当にやるべきことは「技術立国」だと思っている。日本は技術力で勝負してきた歴史があるからだ。出資先は省エネ性に優れたパワー半導体を開発するフロスフィア(京都市)や、ガスや化学物質の吸着技術を持つアトミス(同)などいずれも先端技術を持つ企業だ。チャレンジングではあるが、大学の技術を生かして世界ナンバーワンを育てたい。■新型コロナで大企業がスタートアップ投資を手控える懸念もあるが、技術のタネを育てるためにも継続的な投資の重要性を唱える。日本が基礎研究への投資を絞ってきた過去を振り返り、国際的な競争力の低下を危惧する。景気には波がある。いいときだけ波に乗るのではなく、悪いときこそチャンスだと思った方がいい。関西の大企業でも濃淡はあるが、多くが投資を抑えている印象だ。新型コロナに対抗できる財務体力を維持しておきたいということだと思うが、スタートアップへの投資では東京とはすでに差が開きつつあるようにみえる。継続性が重要だ。関西の大学が抱える競争力の源泉にあるのは基礎研究で生み出された発見や発明だ。ところが日本は現在、研究費を絞ってきている。基礎研究はすぐに役に立つかは分からないが、これがないとイノベーションを起こすことができない。大学がスタートアップ育成をしようとしている理由の一つにも、研究開発資金の不足がある。政府の交付金が減るなかで、大学は知的財産を活用し自分たちで利益を出さなくてはならなくなっている。■学生時代から独立して事業を手掛けたいとの思いが強かった。鹿児島の出身で、幕末から明治にかけて、薩摩から日本や世界を見た島津家や西郷隆盛に影響を受けたという。米国駐在や中国企業での勤務を経て京都の地にたどり着いた。若い起業家には、厳しい時代だが未来につながる技術を生み出せばチャンスがあると訴えたいと話す。生家は西南戦争の激戦地になった「城山」の近くだった。いずれは自分で事業を興して世界で活躍したいと思っていた。VCのジャフコ米国法人に在籍していたころはインターネットの黎明(れいめい)期に身を置いて投資を学んだ。ジャフコ退社後はラオックス社長の羅怡文氏が作った情報サービス企業・中文産業グループの役員を務め、09年の蘇寧電器集団(現・蘇寧易購集団)によるラオックス買収にも携わった。VCと事業会社のどちらにも関わった経験を生かせないかと考え、みやこキャピタルを立ち上げた。京都は1972年に日本初のVC「京都エンタープライズディベロップメント」が設立された土地でもある。東京に比べると若くて元気のある経営者がやや少ないのではないかと思うが、次世代のリーダーが関西から出てきてくれることを期待している。(聞き手は杜師康佑)

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