自覚なきヤングケアラー探す


認知症や病気、障害がある家族を介護する18歳未満の子どもは「ヤングケアラー」と呼ばれている。日本の潜在的なヤングケアラーは数万人に上るとみられているが、本人の自覚もないまま重い負担を押し付けられたり、学業や友人関係との両立が難しくなって将来への目標を見失ったりすることも多い。支援の先進地である英国の取り組みと、京都で始まった試みを紹介する。介護担う若者支援先進地・英国立命館大の斎藤真緒教授(46)は2018年9月から1年間、英中部シェフィールドに滞在し、ヤングケアラー支援団体の活動を取材した。同国のヤングケアラーは平均12歳。本人に自覚がないことが多く、支援の多くは外部から積極的に対象者を探すことからだ。人口約50万人のシェフィールドでは年間100~200人と新たにアクセス、自治体から委託を受けた支援団体が学校などと連携して活動し、効果を挙げている。支援団体は、学校に対象者を把握・サポートする担当教員を置くよう求め、教員研修も実施する。学校の第三者評価にヤングケアラー支援の項目があり、取り組みは学校側にもメリットがある。病院とも連携し、患者が家で子どもから世話を受けていると分かれば、支援団体に連絡が入る。対象者宅を支援団体が訪問し、子どもと介護を受けている家族の双方に状況を尋ねる。介護内容だけでなく、学業の状況や友達との関係、将来の目標などを聞き、どのような支援が必要かをまとめる。その結果、介護サービスの内容の見直しを働き掛けることもある。また、子どもが詩や動画を作る企画を通じて自分の気持ちと向き合う機会を提供している。「希望の進路を我慢していることもあるが、同じ立場の人と触れ合えば違う未来を考えるきっかけになる。介護を否定するのでなく、選択肢を持ってもらうことが大切だ」(斎藤教授)進路考える機会を提供介護から離れる時間となる余暇活動も提供。映画鑑賞や家族参加のイベントに、1年限定だが1人当たり年300ポンド(4万円強)が充てられる。英国では14年に「子どもと家族に関する法」が制定され、ヤングケアラーを積極的に探すことを自治体に事実上義務付けた。日本では個人情報保護の壁で難しい取り組みも、この法律が後押ししている。家族にもそれぞれの人生があるとして「個」を支えようとする英国と比べ、日本は介護の責任を家族一体で負うべきとする考えが根強いことも、ヤングケアラーへの関心が高まらない一因と斎藤教授はみる。「人生の先行きが固まらない段階で介護を引き受けており、他の世代と事情が異なる。子どもや若者を育成する観点でも支援の重要性を考えてほしい」と訴える。ー京都でも当事者らが集いー
青年ら「伴走者」求める声日本では地域が先行して取り組みを始めており、京都市でも団体やヤングケアラーらが悩みを共有し合う集いを開いている。京都市ユースサービス協会(中京区)は、斎藤教授らと共に2017年から経験者に語ってもらう事例検討会を計11回開いている。きょうだいを含めて病気や障害などのある家族のケアを担う人が対象。就職を控えた大学生など青年期ならではの問題もあるとして参加年齢を30歳までとしている。新型コロナウイルスの影響で中断中だが、新しい開催法を検討している。

 ヤングケアラー自身による取り組みも広がる。同協会の事例検討会に関わる朝田健太さん(34)=京都市北区=は「ふうせんの会」をつくり、7月から祖父母や両親を介護する人に特化した集いを始めた。朝田さんは認知症だった祖父の介護を約10年間担った。大学院を辞めざるを得ず、就職にも苦労した。「目の前の介護に追われ、一人では冷静に将来を考えにくい。社会人経験のない若い世代には仕事やお金の問題を家族の立場で一緒に考えてくれる『伴走者』の存在が必要だ」と指摘している。

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