新型コロナ新薬も…AIで進化する医薬品開発 “謎”の漢方も対象…


 人工知能(AI)の力を借り、より効率的に新薬を見つけ出す-。そんな「AI創薬」の研究が年を追うごとに進化している。九州工業大は7月、適切な治療薬を探し出せるAI手法を新たに開発したと発表した。新型コロナウイルスの新薬開発に活用しているほか、長年広く使われながら効能メカニズムが分かっていない漢方にも応用しているという。研究チームの代表、山西芳裕教授(生命情報学)に解説してもらった。(竹次稔)

 やや難解な説明になるが、薬は化合物だ。体内のタンパク質にくっつき、がんなら腫瘍を小さくするなどの薬効が現れる。体内には3万種類以上のタンパク質があるとされ、病気の治療につながるタンパク質は「創薬標的分子」(以下、創薬標的)と呼ばれている。つまり、体内にある特定のタンパク質とうまくマッチしなければ、薬として役に立たない。

 「医薬品開発にとって、いかに効率よく創薬標的を見つけるかが最も重要な課題です。きちんと特定できないと、動物実験では薬効が確認できたが、人への効果は少ない失敗事例になってしまいます」

 効率的に創薬標的に行き着くため、山西教授が注目したのが、ある病気と別の病気の類似性だ。アルツハイマー病、結核、白血病、エボラ出血熱、関節リウマチ、C型肝炎など79種の疾病間で、それぞれどれだけ似ているか、似ていないか。分析を進めれば、結果的に異なる病気でも同じ薬が使えるかもしれないし、何らかのヒントが得られる可能性がある。

 そこで登場するのがAI。病気ごとの遺伝子情報は、世界でビッグデータが積み上がっている。それらを利用し、AIで計算しながらシステムを開発した。AIが実用化されていない昔なら考えられない手法だ。

 「例えば、創薬標的が分かっていない難病患者の遺伝子情報を今回のシステムに入力すると、79種のどの病気に似ていて、どのタンパク質が創薬標的となりそうか予測できます」

 一例を挙げると、呼吸しづらくなる特発性肺線維症は原因不明の難病だが、このシステムを使うと糖尿病と創薬標的が似ている可能性が予測された。実際、糖尿病の治療薬であるメトホルミンが、いくつかの経路を介して肺の線維化を抑制する可能性があるとの論文が昨年発表されている。

 「100%の精度で創薬標的を絞り込むのは難しいが、千回実験しなければならないのを、100回に減らすことができれば、必要な費用と時間の軽減になる。だからこそ、世界的な研究競争が激しい分野なのです。現在のところAI創薬とは、医薬品開発を効率的にする手法、とも言えます」

 

 

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