国負担事業の妊婦PCR検査、広島・山口・岡山県が実施 「偽陽性」リスクなど課題


国が費用を負担して希望する妊婦に新型コロナウイルスのPCR検査を受けてもらう事業で、中国地方5県では広島、山口、岡山の3県が実施を決めた。安心して出産を迎えてもらう狙いだが、開始時期はいずれも未定という。感染していないのに陽性が出る「偽陽性」のリスクと検査態勢の確立がハードルとなっている。事業は、無症状でも感染の不安を抱える妊婦が望めば、出産の2週間ほど前に検査を受けられる。検体は、事業に協力する医療機関で採取する。費用は国が負担するが、自治体が取り組むと名乗り出るのが条件。国は、6月に成立した2020年度2次補正予算で財源を確保した。広島県は実施に向け、県産婦人科医会(広島市東区)と検査態勢や妊婦への周知方法を協議中だ。陽性になれば帝王切開となったり、産後の一定期間は母子を離さざるを得なかったりする可能性が高い。偽陽性でも同様の対応となる。豊田紳敬(のぶたか)会長は「本来なら通常に出産できる母親に、かなりしんどい思いをさせることになる」と懸念する。県内のある産婦人科医は「この検査を積極的には妊婦に知らせたくない」とこぼす。県は妊婦全員が望んだ場合、1日平均約60人が検査を受けると計算している。偽陽性を含む陽性者が一定に出てくれば、出産を担う医療機関の負担も増す。岡山県の母子保健担当者も「偽陽性リスクを理解しないまま、大勢が検査を受けると混乱が生じる」と危惧。妊婦に検査のメリットとデメリットを周知できるよう、医師や保健所職員への研修を進めている。検査態勢も課題だ。国は当初、この事業での検査を喉の粘液によるものに限っていたが、7月下旬に唾液検査も可能とした。唾液検査は、鼻から綿棒を入れて喉の粘液を取る方法と比べ、医療者が感染する恐れが小さい。そのため、豊田会長は「検体採取することをためらっていた診療所が、協力に手を挙げる可能性はある」とみる。広島県医療介護人材課は「唾液検査が可能となり、検査態勢をあらためて考えている。陽性が出た妊婦を支える仕組みも関係者と準備し、できる限り早く運用を始めたい」と説明。山口県の担当者も「検体を採取できる施設選びを急ぎたい」としている。中国地方の残る2県のうち、島根は「実施に向けて検討中」。鳥取は国の事業には乗らず、県独自で公費による妊婦のPCR検査をしており、病院や助産院の院内感染の防止を目的としている。(久保友美恵)

関連記事

ページ上部へ戻る