治療両立へ対応手探り 感染不安、患者の心乱す


新型コロナウイルスの感染拡大により、全国にある精神科病院で複数のクラスター(感染者集団)が発生した。病気の難しさ故に、陽性となった場合に他の病院での受け入れが難航するケースがある。一方、自院での対処はノウハウが十分とはいえない面もある。新型コロナと精神疾患の治療を円滑に進められるのか、関係者は苦悩している。日本精神科病院協会によると、9月16日現在、全国19カ所の精神科病院で患者の感染が発生した。同協会は4月、国や地方自治体の責任で、遅滞なく必要な医療が提供されるよう厚生労働省に要請した。■現時点で山陰両県内での事例はないものの、関係者は万一に備えて身構える。益田圏域の精神科医療を支える松ケ丘病院(島根県益田市高津4丁目)が重点を置くのは発生の未然防止だ。対策委員会を設け、DPAT(災害派遣精神医療チーム)の一員となる長沼清医師(42)が陣頭指揮に当たった。家族が首都圏に移動歴があるといった「疑わしい患者」に対し、積極的にPCR検査を実施。入院時には胸部CT(コンピューター断層撮影)を行い、肺炎の有無を確認する。長沼医師は「可能性はなきにしもあらず」と自衛の必要性を口にし、職員向けの研修会も開いた。それでも不安は消えない。「答えがない」と坪内健院長(48)が言うように、重度の認知症や興奮状態が著しい患者の対策は手つかずだという。院内で感染者が出た場合、患者同士、医療従事者と患者の身体的接触が生じる可能性もある。島根県の対応方針によると、精神疾患のある感染者も基本的に指定医療機関に入院することになる。仮に県全体の入院患者が多数発生する状況になれば、地域の精神科病院に受け入れに協力してもらうよう呼び掛けている。■神奈川県は受け入れ調整が難航した経験から、コロナ患者用に新設した臨時の仮設医療施設と、県立精神医療センター(横浜市)を、入院治療に対応する「精神科コロナ重点医療機関」に認定した。その上で、精神科病院の入院患者が感染した場合、保健所の指示で、軽症者は原則自院で対応する▽新型コロナと精神疾患の症状を診断し、入院先を決める-などの基準を示した。それぞれの医師がオンラインで連携して治療に当たり、クラスター化を防ぐ。同県がん・疾病対策課の小泉遵子精神保健医療担当課長は「今後も重点医療機関を増やしていきたい」と話す。感染症と精神疾患の治療の両立には受け入れ環境の整備が必要になるが、島根県内ではまだ手探りといえる。患者にとっても良い状態とはいえない。精神疾患で通院している島根県内在住の男性は「治療する場所が限られている。自分が新型コロナにかかったときに治療してもらえるのか」と不安を抱える。さらに、感染が拡大し始めた2月ごろは「自分が感染してしまったら…」と気持ちが乱れたという。こうした潜在的な不安も考慮しながら、少しでも備えを前に進める必要がある。

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