【産後ケア事業】うつ予防の意義大きく


出産後の母親は、昼夜を問わない新生児の世話で疲労がたまる。食事や睡眠もなかなか取りづらい。 ホルモンの影響もあり、抑うつ状態になりやすい。そうした時期に心身を回復させるため、利用できるのが市町村の「産後ケア事業」だ。 厚生労働省はその利用料について、2021年度から消費税を非課税とするよう求め、税制改正要望に盛り込む。金銭的負担を軽減し、利用を促したい考えだ。 「産後うつ」の発症は本人が気付くことが難しいとされ、重症化する前の支援強化が急務となっている。 高知県でも、支援を必要とする母親が十分な産後ケアを受けられる体制づくりを進めなければならない。 市町村の産後ケア事業は保健師や助産師が担い、主に産後1年以内の母子を対象にしている。 例えば、通所型で育児相談や母親同士の交流を行ったり、自宅訪問型で授乳指導に訪れたりする。 高知市では、助産院に事業を委託する形で、最長6泊7日までの宿泊型も実施している。 助産師が常駐し、母親は赤ちゃんの世話などに助言や指導を受けながら心身を回復させる。利用したことで「元気になれた」「育児に自信がついた」と好評という。 厚労省が利用を促す背景には、重症化すれば、命にも関わる産後うつの問題がある。 ショッキングな調査結果がある。2015、16年の妊産婦死亡の原因を調べたところ、妊娠中から産後1年未満に亡くなった357人のうち、自殺が102人と最多だった。産後うつが原因の一つと考えられている。 「ワンオペ育児」の問題も影を落とす。パートナーが長時間労働だったり、非協力的な姿勢だったりして、母親1人で家事と育児を背負い込んでいる状態だ。 ストレスと孤立感に悩む母親は多い。それらを和らげ、うつの発症やそれに連なる子どもへの虐待を防ぐ産後ケア事業の意義は大きい。 ただ、全国で2019年度に産後ケア事業を実施した自治体数は941市区町村で全体の5割超にとどまる。高知県も含めて、地域によって取り組みに温度差があるのが現状だ。 2021年4月には、改正母子保健法が施行され、産後ケア事業が自治体の努力義務になる。実施は広がるだろう。 とはいえ、自治体の規模が小さければ、マンパワーなどには限りがある。今後は住んでいる地域にかかわらず、一定の産後ケアが受けられる仕組みづくりが課題となろう。高知県も取り組みに力を入れるべきだ。 赤ちゃんの個性は一人一人違う。よく泣いたり、母乳をうまく飲めなかったり。それらで母親が悩んでいるとき、知識と経験に基づいた専門家からの支援は大きな力になる。不安が解消し、育児に前向きに取り組めるきっかけになる。 母親が心身ともに健やかであれば、子どもと笑顔で向き合えるものだ。支援を必要としている母親たちにきめ細かいケアを届けたい。

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