新型コロナ、狂犬病予防に影響 接種期間、年末まで延長 分かれる自治体対応 危機感の薄れ懸念


新型コロナウイルス感染症が狂犬病の予防接種に影響を与えている。多くの県内自治体が新型コロナの「3密」防止や感染リスクを考慮し、春先の公園などで行われる犬の「集合接種」を見合わせた。厚生労働省は、4〜6月を注射月間と定めているものの、今年は年末まで接種期間を延長した。自治体によって今後の対応は分かれており、県や県獣医師会は「コロナ禍が接種率低下につながるのでは」と懸念している。

狂犬病予防法で生後91日以上の犬は、登録と年1回の狂犬病予防接種が義務付けられている。県は厚労省の通知を受け、年末まで接種期間を延長する通知を自治体に16日付で出した。

接種率向上の鍵を握るのは、公民館や公園に飼い主が犬を連れてきて集団で行う集合接種だ。

今春の集合接種について、県内自治体のうち笠間、石岡の2市と大子、城里、茨城、五霞の4町の計6市町は実施したと茨城新聞の取材に回答。残る8割以上の自治体は中止か途中で取りやめている。

中止した自治体の一つである水戸市は、今後の開催を模索する。同市動物愛護センターは「接種率を上げるには集合接種が必要。交通手段のない高齢者は自宅近くまで獣医師が来てくれるので、頼りにしている人もいる」と指摘。新型コロナの再流行が心配されるものの「なるべく実施する方向で考えている」としている。

本年度の中止を決定した自治体もある。取手市は「いつ(コロナの)第2波が到来するか分からない」(環境対策課)として中止を決めた。「飼い主の中には、今年は接種しなくていいと思い込む人もいるのでは」と懸念も募らせる。

このほか、牛久市、龍ケ崎市、つくばみらい市、河内町、美浦村なども本年度の中止を予定している。

県生活衛生課によると、2019年度の県内接種率は登録頭数16万7083頭に対し接種済みが10万5154頭で、62.9%だった。18年度は登録16万9835頭に10万7174頭で63.1%。同年度の全国平均接種率71.3%を下回っている。同課の小森春樹課長補佐は「犬を室内で飼っている人も増えていて、狂犬病への危機感が薄れている」と話す。

接種を啓発している県獣医師会の宇佐美晃会長(64)は「接種しなくても大丈夫という意識の広がりが怖い。狂犬病の予防接種は人を守るための注射でもある。飼い主だけでなく、多くの人に接種の重要性を理解してほしい」と呼び掛ける。

狂犬病はワクチンで予防できる一方、発症すると有効な治療法がなく、人も犬もほぼ100%助からない病気だ。水を怖がるのが特徴的な症状。感染したほ乳類にかまれることで唾液からウイルスが侵入し、数カ月の潜伏期間を経て発症する。人から人には感染しない。

今月13日には、愛知県豊橋市内の病院で、フィリピンから来日後に狂犬病を発症した外国籍の30代男性が死亡した。同市の発表によると、現地で感染した犬にかまれたとみられる。

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