なぜ除外?「靴型装具」の公的助成 国が要件“厳格化”、作製者困惑


靴型装具(上)

 「痛みなく履ける靴」を安価で提供できなくなり、困っています-。病気や障害など足にトラブルを抱えている人が使う「靴型装具」を、長年、産学で培った技術をもとに作製してきた福岡県大牟田市のNPO法人の理事、田中隆基さん(68)から取材依頼が届いた。オーダーメードで高価なため公的助成の対象となっているものの、近年、市販靴などを偽って販売する業者が発覚。国が審査要件を“厳格化”したことから一転、支給が認められなくなったという。混乱の背景や課題を探った。

 強い扁平(へんぺい)足や外反母趾(ぼし)、リウマチなどによる足や指の変形…。「そうした人は矯正や治療のため、専用の靴が必要です」と田中さん。同市のNPO法人「福祉でまちがよみがえる会」が運営する事業所「足と靴の相談室 ぐーぱ」で、こうした靴型装具の作製、販売に携わって12年になる。

 1足で十数万円に

 一人一人の足の形状を確認し、型を取って合わせ、手作りしていく。1足十数万円に及ぶことがほとんどだ。「一度作っても履くうちに調整や再加工が欠かせず、新しいものが必要になる人も少なくありません」

 このため治療用のものは健康保険組合などから、障害者の日常生活向けには自治体から、医療、福祉両面の助成制度がある。医師の指示や意見のもとで業者に作ってもらい、必要書類を添えて申請すれば、自己負担はおおむね1~3割で済む。

 ぐーぱも高齢者や障害者から相談を受けて作製し、延べ500件以上の助成申請が認められてきたものの-。2年前、厚生労働省が出したある「通知」を境に、状況は一変した。

 義肢装具士に限定

 発端は2017年、治療用の装具に絡む不正請求が明らかになったことだ。

 愛知県の業者が簡易加工しただけの市販のスニーカーを装具と装って販売。健康保険組合連合会によると全国各地の健保など運営主体が1600件を超える被害に遭い、不正請求額は約1億1700万円近くに上った。その後、安眠枕や市販のサポーターを装具として販売するなど別業者の不正も判明。医師が加担した例もあったとされる。

 申請には医師の証明書や業者の領収者が必要だが、当時は現物や写真を示す義務がなく、チェックをすり抜けていた形。厚労省は18年2月、購入者が支払った代金の領収書に「取り扱った義肢装具士の氏名」を記載する▽原則として現物の写真も添付する-など手続きを明確化し、保険者側に通知した。

 義肢装具士は医師の指示のもと、義手や義足を作る専門職で国家資格の一つ。その後は「義肢装具士が作製にかかわったもの」以外、助成が認められないケースが相次いでいるという。

 ぐーぱでも昨年以降、大牟田市や同県久留米市、熊本県荒尾市の計8人が「不支給」の決定を受けたが、田中さんは納得できない。「靴型装具は本来、整形外科的な靴を作る技術で、義肢などの技術とは別。義肢装具士が必ずしも靴を作る技術を持っているわけでもない。そんな実態があまりにも知られていない」

 保険下りた靴でも

 実際、福岡県は技術者を民間レベルで培ってきた“先進地”だ。

 同県立大(同県田川市)は07~16年、戦前から整形外科靴技術が進むドイツのノウハウの継承、普及を目指すNPO法人「靴総合技術研究所」(東京)や医師らとともに、靴型装具の元となる標準靴などの開発や研究、技術者養成に産学で取り組んだ。

 「よみがえる会」も協力し、ぐーぱを開設。元市職員の田中さんも義肢装具士ではないものの技術を学び、同大やメーカーが共同開発した特製の標準靴を加工するなどし、作製を手掛けている。

 「義肢装具士のいる業者に作ってもらい、国保も下りた靴型装具が痛くて履けない」。地元の60代女性からぐーぱに相談があったのは昨年春。女性は約半年、その業者と修理を重ねたが、不具合は続いた。結局返品し、市側とも交渉して国保も返金。今はぐーぱで「自費覚悟で」新たに作製中だ。「せめて申請を門前払いはしないよう、市には求めていますが…」。田中さんは視線を落とした。 

 不正を防ぐための「線引き」が及ぼした思わぬ事態。果たして国や自治体側の言い分は-。

(編集委員・三宅大介)

 【ワードBOX】装具
 義手や義足、コルセット、座位保持椅子など、病気やけがで身体の機能が低下、失われるなどした場合、その機能を補い、患部などの保護、サポートをするために装着する補助器具。「治療用装具」は医療保険から療養費として、「補装具」は障害者の自立支援給付の一環として、それぞれ助成制度がある。医師の指示などのもと、原則、申請者の体に適合するよう作られたものが条件。

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