《模索 新型コロナ県内初確認3カ月》(8)行方 綱渡りの判断 今も


「患者さんのリハビリが始まりました」。6月上旬、前橋赤十字病院(前橋市)の新型コロナウイルス感染症対策室。医師や看護師、事務など各部門の職員が毎日集まり、情報共有や課題の検討が行われる。ホワイトボードは医療物資の需給量を示すグラフで埋まる。半年分の確保を目指すが、今も手袋は品薄で、消毒液の供給は不安定だ。 県内では最初の感染期は越えたとみられる。感染症専門医で同病院の林俊誠感染症内科副部長(38)は「いったん収束したのは、感染経路を追えていたことが主な要因」と推測。感染経路が不明な人の割合は大都市圏に比べ低く推移したが、今後も予断を許さない状況は変わらないという。 現状で結果判明が検体採取の翌日以降になるPCR検査では、採取の日に判明する態勢も整えることが望ましいと指摘する。早期の感染者把握や対応につなげるには、検査時間の短縮が見込める新開発の機器・試薬の活用も手段の一つとなる。新型コロナで経営が苦境に立つ病院もあり、検査の充実には行政の支援が必要だとする。■マニュアル作成 同病院ではこれまで他院の2倍の患者を受け入れたという。中野実院長(63)は「時間があるうちにさまざまな患者を想定した準備を進めておく」と話す。小児や妊産婦、精神疾患など経験がない患者対応のマニュアルの作成に着手。分娩(ぶんべん)室の換気や動線を分けるなど施設改修も進め、産婦人科と小児科で完了させた。 救急医療では、発熱などで感染が疑われる患者への対応に難しさが残る。受け入れを断る医療機関もあり、救急病院に搬送が集中、負担が増している。同病院もその一つ。コロナ診療と救急の役割分担が理想だが、同病院の中村光伸高度救命救急センター長(46)は「非常に難題だ。搬送の基準がなく、医療機関によって見方が分かれることがある」。一定のルールが必要と考えている。 ウイルスの性質がこうした事態を招き、林医師は「症状が他の病気と似ていたり多様すぎたりする」と説明する。搬送された患者をコロナ病床、一般病床のどちらで受け入れるのか。医療機関に綱渡りの判断が委ねられている。■経営悪化 構造的な課題もある。感染症診療は収益や病院の評価につながりにくく、一般的な手術や治療を充実させた方が経営に有利という。経営が悪化した病院もあり、重要性が知られても専門医の養成や感染症科の設置が進むか定かではない。 第2波は秋以降との見方もあるが、時期や規模を見通すのは難しい。今なお未知の感染症に備える医療・介護従事者は気を緩めようもない。(おわり)

関連記事

ページ上部へ戻る