抗体検査の陽性率発表 東京0.1%、大阪0.17%


加藤勝信・厚生労働相は16日、新型コロナウイルスに感染したことを示す抗体検査を東京、大阪、宮城で実施したところ、陽性率は東京が0・10%、大阪が0・17%、宮城0・03%だったと閣議後会見で発表した。抗体が新型コロナウイルスへの再感染をどの程度防ぐ効果があるのか、国立感染症研究所でさらに研究するという。抗体検査は、ウイルスに感染した後に体内にできるたんぱく質(抗体)を、血液検査によって調べる。感染の広がりを調べるため、厚労省は人口の多い自治体のうち、感染者数が多い東京と大阪、少ない宮城を調査の対象地域とした。20歳以上の住民計7950人を無作為に選び、6月初旬から検査をしていた。二つのメーカーの測定法で検査し、いずれも陽性と判定された人は東京は1971人のうち2人(0・10%)、大阪は2970人のうち5人(0・17%)、宮城は3009人のうち1人(0・03%)だった。5月31日時点の累積の感染者数は東京5236人(感染率0・038%)、大阪1783人(0・02%)、宮城88人(0・004%)。厚労省の担当者は「抗体を持っている人は累積感染者数と比較すると多く、無症状の感染者が一定程度いると考えられる。抗体が今後の流行にどう影響するか、現時点ではわからない」と話している。今回、厚労省が調査に使った検査方法は大型の機器を使う「精密検査」だ。抗体があるかないかだけがわかる簡易検査キットと比べて精度は高いが、それでも陰性の人の0・2%は陽性と判定されてしまうなど「偽陽性」が出る。今回の結果はいずれも陽性率が低いため、検査の精度から考えると、誤差の影響を大きく受けてしまう。山形大病院検査部の森兼啓太部長は「国内の感染状況からみて当たり前の結果であり、ほとんど解釈できない数字」としつつ、「次の波が来たときに誰もが感染しうる。『安心してはいけない』ということが確認できた」と話す。東京医大の濱田篤郎教授(渡航医学)は「いずれも低いなという印象だ。欧米の抗体検査では10%程度の報告があるが、日本は大幅に低いことになる。感染者がそれだけ少ないということでもあり、この抗体陽性率だと、日本では、秋にも心配される第2波で感染者数が増える可能性がある」と指摘。だが医療体制や検査体制を整備すれば、「欧米の第1波で見られたように死亡者数が増えるといった被害は避けられるだろう」と話す。日本臨床検査医学会理事の柳原克紀・長崎大教授は、検査を受けた人たちがその地域の年齢や職業など構成からみて偏りがないかどうかに留意が必要としたうえで、「二つのメーカーでいずれも陽性の人を見ているので、ある程度信頼できる。今回の流行の対策を総括するためのデータにはなる」と評価する。ただし、一方だけ陽性の人をどう評価するかは難しいという。「数人でも陽性の人が増えればそれだけで割合は2倍、3倍になる。そういう意味では0・1%という数字そのものにはあまり意味はないが、『ほとんどの人が感染していない』ということがわかったとはいえる。次の流行への備えはしっかりやらなければいけない」と指摘する。抗体検査で感染の広がりを捉えようという試みは、民間や大学でも広がる。ソフトバンクグループは9日、全国の社員や取引先、医療従事者ら計約4万4千人に簡易検査をしたところ、陽性率が0・43%(191人)だったと発表した。東京大先端科学技術研究センターの児玉龍彦名誉教授らのグループは都内約1千人を精密検査で調べたところ陽性率が0・7%だったとしている。一方、新型コロナに現在感染しているかどうかがわかるのは、診断用として国の承認を受けたPCR検査や抗原検査に限られる。抗体検査で検出されている抗体が、新型コロナの感染を防ぐ能力があるかどうかはまだわかっていない。民間のクリニックなどで簡易の抗体検査を実施しているところはあるが、山形大の森兼さんは「ほとんどの人が抗体を持っていないうえ、抗体を持っていたら二度とかからないかもわかっていない。精度の低い簡易検査を個人が受けることにあまり意味はない」と話す。日本臨床検査医学会の柳原さんも、抗体検査を個人が受けることにはあまり意味はないとしたうえで、「新型コロナの重症化は1週間後くらいからとされている。もっとデータが集まって精度があがってくれば、症状が出て1週間とかで診断に使い、重症化を防ぐというやり方は考えられるのかもしれない」と話した。(富田洸一、後藤一也、野口憲太、服部尚)

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