認知症が疑われる人と家族らの不安を解消し、医療から福祉へつなぐ支援のモデルを、岡山県立大保健福祉学部の竹本与志人(よしひと)教授らのグループが考案した。診断後、家族らは「どこに相談すればいいか」「どんな経済的支援があるか」が分からず、困惑するケースが多い。竹本教授らは医療機関のソーシャルワーカーや看護職による「連携担当者」の役割が鍵を握るとし、支援を通じて「認知症のある人や家族の負担と不安を取り除き、認知症とともに歩むための『新たな人生設計』を一緒に描いてほしい」と訴えている。 グループは当事者や家族らのアンケートを実施。受診・受療援助の期待は高いが実施割合は低い▽家族らは診断や治療に関することだけでなく、不安の受け止めや介護方法、診断後の経済支援といった総合的な対応を望んでいる▽経済支援の実施率は低い―といった当事者らの希望と、実際の支援にずれがあることが分かった。 考案した支援モデルは、診断前からスタートする。連携担当者が詳しく情報収集し、認知症が疑われる人と家族の状態を把握し、信頼関係を構築。診断時やその後の本人らの心理状況を把握し、どういう生活を望むかというイメージづくりと、意識の共有を目指す。家族らのストレス緩和にも努め、医療・介護のサービス量を評価して、経済的負担が生活にどの程度かかるか想定することも必要だ。 家族らが独自に収集した情報は「認知症は短期間で症状が悪化する」など悪いことに偏りがちなため、心配を家族らに明かしてもらうことが重要となる。そして家族らが診断や治療に関して理解しているか確認する通訳機能と、当事者らの気持ちを医師に伝える代弁機能を果たす。支援方法を提示した場合も、選択は本人らに任せる。 その後は、地域包括センターや居宅介護事業所などに福祉的な支援を任せることになるが、「主体を移行するだけで、医療機関の援助をゼロにしてはいけない」とし、福祉施設などとの情報交換を密にし、家族らの相談に常に応じられる態勢を探るよう求めている。 社会福祉士・精神保健福祉士、介護支援専門員として認知症のある人らのケアに携わった経験が豊富な竹本教授は「診断は人生に終止符を打つ機会ではない」と強調。「配慮のない診断と告知は、困惑と混乱を招く」とし、初診や診断直後の支援が肝心で「適切な対応があれば住み慣れた地域で末永く生活できる」と話している。 内容は書籍「認知症が疑われる人に対する鑑別診断前後の受診・受療援助の実践モデルに関する研究」(大学教育出版、2420円)にまとめた。