認知症、意思確認どこまで 福井の特養ホーム投票偽造


2019年4月の福井県知事選で認知症高齢者の投票を偽造したとして公選法違反罪に問われた特別養護老人ホームの元施設長に、福井地裁は3月、罰金刑の判決を言い渡した。公判では投票意思の確認が現場任せになっている実情が明らかになった。投票権の尊重と公正な選挙。現行法に意思能力に関する明確な規定はなく、専門家は外部立会人の必要性を指摘する。福井県大野市のビハーラ大野で19年4月4日に行われた不在者投票。誘導係の男性職員が重度認知症の高齢女性らを車いすに乗せ、順番に会場の食堂に連れてきた。壁には候補者3人のポスター。職員が現職候補を指さし「この人?」と聞くと、女性らは小さく「うん」と答えたり、わずかにうなずいたりした。職員は意思を確認したと判断してあとの2候補には触れず、代筆係の別の職員が投票用紙に記名、投票は完了した。施設を経営する福祉法人は当時、現職候補を推薦した。選挙の約1カ月前にこの候補の妻が施設を訪れた際、元施設長が職員に出迎えさせていた。検察側は公判で「支持候補への投票偽造がされている状況をよしとしていた」と非難した。3月26日の地裁判決は公選法の代理投票について「選挙人が自らの意思で候補者を選択したことが十分に伝わらなければ行えないと解すべきだ」と指摘した。「外形的なうなずき」などだけでは意思を確認したことにならないと結論付けた。弁護人は「現行法ではどの程度の意思能力なら確認が十分なのか分からない。抽象的な規範に基づく判断だ」と批判した。実際に確認方法に明確な決まりはなく、施設によって意思の判断基準はさまざまなのが実態だ。元施設長は重度認知症の入所者でも「少しでも反応が確認できれば投票させた方がいいと思う」と公判で供述した。一方、福井市内の別施設に勤務する男性職員は「投票は基本的に自筆できる人に限り、重度認知症の人には投票させない」と打ち明ける。各自治体の選挙管理委員会が元職員などを選出、不在者投票に立ち会わせる外部立会人の制度があるものの、設置は「努力義務」で、手続きの複雑さなどから設置しない施設がほとんどだ。ビハーラ大野でも置かれていなかった。福井県知事選では、不在者投票を行った県内施設で外部立会人を用意したのは約2割。3カ月後に行われた参院選では、ビハーラ大野のやり方が問題視されたことから「より適切な判断ができるように」と外部立会人を設けた施設もあったが、それでも約3割にとどまった。国学院大法学部の佐藤彰一教授(権利擁護)は認知症患者の意思確認を現場の責任にするのは問題だとして「外部立会人の設置を義務化すべきだ」と訴える。公判で明らかになった認知症高齢者の意思確認を巡る問題点。多くの人が投票に参加するという理想と公正な選挙実施の両立を支える方法が求められている。〔共同〕

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