心の病をアプリで治療、コロナ禍で注目 規制緩和も


ソフトウエアを活用して病気を予防・管理・治療する「デジタル治療」への関心がここ数年高まっている。これはデジタルヘルスの新興分野として患者ケアの新たな手段になる可能性があり、市場規模は2025年には90億ドル近くに達する見通しだ。だが、業界で導入が実際に進むか不透明で、役割は依然はっきりしていない。FDAは4月、精神疾患(大うつ病性障害、統合失調症、薬物依存症といった物質使用障害など)を対象にしたデジタル医療機器(デジタル治療を含む)の規制要件を一部免除する指針を発表した。これにより既存の治療モデルにデジタル治療をどう組み込めるかを示しやすくなるだろう。今回のリポートでは、この新たな指針の意味と重要性、新型コロナウイルスの感染拡大時と終息後の業界への影響について注目する。1.精神疾患を対象にしたデジタル治療機器の一定の規制要件が免除されている。このため、企業は承認を得ていなくても対象機器を暫定的に発売できる。2.主に医師の処方箋が必要なデジタル医療機器(クラス2)が対象であり、医師の監督の下で使われる。処方箋の不要な機器の一部も対象になっている。3.パンデミック(世界的な大流行)に伴う精神科医療の混乱に対する短期的な解決策となる。患者を支える、より便利な選択肢をつくるのが目的だ。新型コロナのパンデミックは医療の提供に大混乱を引き起こしている。外出制限令により患者は自宅にとどまっているため直接治療を受けられず、医療機関はパンク寸前に陥っている。このため、医療従事者と患者の双方で遠隔医療への需要が急増している。FDAはこのニーズの高まり、具体的には精神疾患のニーズに対処したいと考えている。パンデミックで不安や孤独感が高まるなか、個人が精神疾患を発症したり、悪化させたりするリスクが高まっている可能性がある。さらに、米国の成人の約2割が精神疾患を経験しているため、この分野にもっと多くの資源を投じる必要性も示されている。今回の規制緩和で精神疾患に対応するデジタル治療機器を速やかに投入できるようになり、患者が離れた場所から利用できる選択肢が増える。これらは主な治療手段として活用できるほか、他の治療と併用することも可能だ。これはデジタル治療の臨床効果を実証するチャンスにもなる。そうなればコロナ後に業界に利益をもたらすかもしれない。一般的に、デジタル治療は利用も販売もしやすい安価な治療手段になり得る。だが、官民の医療保険からの還付状況が不透明なため、業界で広く導入されるかどうかが課題だ。大手製薬会社やデジタル治療会社が加盟するデジタル治療連盟(DTA)は4月上旬、公的プログラムを通じてデジタル治療の利用を推進するため、法律や規制を改正するよう求めた。これが実現すれば、医療でのデジタル治療の使い方に対する理解を促す重要な役割を果たすだろう。FDAの指針は一時的な解決策だが、デジタル治療業界に長期的な影響を及ぼすだろう。この間に患者の利用が増え、受診行動が変わる可能性があるからだ。パンデミックでデジタル治療への関心が高まっているため、大手医療各社は新たな潜在的な商機に注目している。これまでも大手製薬会社による一連の提携や投資はみられたが、各社は現状を受けてM&A(合併・買収)活動に目を向けているため、市場再編がさらに進む新たな兆しがある。精神科の問題に具体的に対処する活動も増えている。例えば、5月には以下のような事例があった。・新製品の共同開発:韓国サムスン電子傘下の印ハーマン(HARMAN)とスイスの製薬大手ロシュは、自閉症スペクトラム障害(ASD)を対象にしたデジタル治療プラットフォームの開発で提携している。・商業権の獲得:スウェーデンの製薬会社オレクソは、独ガイア(GAIA)のうつ病を管理するデジタル治療の米独占販売権を取得した。今年の夏に米国で発売する予定だ。・医療保険との提携:米アリゾナ州の非営利組織ブルークロス・ブルーシールドは州民を対象に、米シェアケア(Sharecare)の不安を軽減するデジタル治療アプリ「アンワインディング・アンザエティ」を3カ月間無料で提供している。パンデミックを受け、医療業界全体で新しい製品やビジネスモデル、戦略を重視する緊急性が生じている。この影響は今後数カ月続くため、医療各社は引き続き患者の健康管理を支援するデジタル治療を模索するだろう。FDAの精神疾患向けデジタル治療についての指針を受け、新製品を発売したスタートアップ3社を紹介する。

関連記事

ページ上部へ戻る