新型コロナでも注目 メンタルヘルスの最先端テック


メンタルヘルスケアは米国市民のニーズの高まりに応えるために進化しつつある。米国では毎年、成人の5人に1人が心の病に陥る。最も多い不安神経症を患う成人は4000万人に上る。こうした問題に対処するため、オンラインセラピーから脳を刺激するウエアラブル機器に至る新たなテクノロジーが、これまでにないほど使いやすく、一人ひとりの患者に応じた解決策を可能にしている。折しも新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)によって、人と人との間に一定の距離を保つ「ソーシャル・ディスタンシング」が求められているため、孤立や不安の感情が高まりかねない危機的な状況にある。オンラインセラピーのプラットフォームは、セラピストのマッチングプロセスをさらに個別化することに力を入れている。企業は現在の危機的な状況において従業員を支援しようとしているため、企業による心の健康管理サービスの提供も注目の分野になりつつある。今回のリポートでは、メンタルヘルスの未来を形づくるテクノロジーと、こうしたテクノロジーがメンタルヘルス分野の主な課題や足りない部分にどう対処するのかに目を向ける。米医療保険大手のシグナが2018年に実施した孤独に関する調査によると、孤独を感じている米成人は50%以上に上った。新型コロナ危機に伴うソーシャル・ディスタンシングによって多くの人が孤立や孤独に陥る恐れがあるため、これは目下の問題に直結している。社会的な孤立や孤独は冠動脈性心疾患や発作のリスク上昇と関連がある。これは社会的なつながりが心身の健康や幸せに及ぼす影響の大きさを示している。心身の健康や幸せをもたらすため、テクノロジーを活用したプラットフォームはリアルなつながりをさらに促進しようと取り組んでいる。一つの例は、共通の関心を持つ会員をつなぐコミュニティーネットワークの米ヘルプフル(Help-Full)だ。会員は「タイムトークンズ(Time Tokens)」というシステムを活用し、支援を提供したり受けたりすることもできる。高齢者が仲間を見つけたり、支援を受けたりすることができるプラットフォームもある。例えば、米パパ(Papa)や米モナミ(Mon Ami)は高齢者と若い世代とをマッチングすることで、高齢者に社会的なつながりをもたらす。同様に、英バディーハブ(BuddyHub)は高齢者と徒歩30分圏内に住む最大3人をつなぐ。彼らは共通の趣味や経験に基づいてマッチングされる。医療システムとの直接のつながりを提供することも、社会的孤立や孤独に対処する方法といえる。例えば、米ピクスヘルス(Pyx Health)はチャットボットを使った孤独スクリーニング検査により、健康を害する経験をした後の社会的孤立や孤独を把握する。対象はあらゆる年齢層で、いつ支援の手を差し伸べるべきかをコールセンターのスタッフに知らせる。新型コロナのパンデミックにより遠隔医療の利用が増えるなか、遠隔医療各社はオンラインで患者をサポートするために取り組んでいる。遠隔セラピー(オンラインセラピー)は、既にメンタルヘルスの取り組みの定番になっている。患者は自宅にいながらにして、携帯電話のショートメッセージや電話、ビデオ会議システムにより資格を持つセラピストとつながることができる。一例はサブスクリプション(定額課金)型プラットフォームの米トークスペース(Talkspace)だ。会員はショートメッセージやライブセッションによりセラピーを受けられる。同社は利用者とのチャットにより、具体的なニーズや目標に応じてセラピストをマッチングする。自分に合うセラピストを見つけるのは気が重いプロセスであるため、この手法はセラピーを利用する際の大きな障害に対処している。トークスペースはこのほど、新型コロナに伴う不安をコントロールするプログラムを開始した。会員を対象に、新型コロナの影響に関連するストレスや不安をコントロールする固有のプロセスを提供する。こうしたサービスは従業員の心の健康と幸せを支援したいと考える企業も引き付けている。例えば、米コーヒーチェーン大手スターバックスはこのほど、米ライラヘルス(Lyra Health)と提携し、社員にライラのメンタルヘルスセラピーやコーチングを提供し始めた。遠隔セラピーを手がける企業も、オンライン相談と一人ひとりに応じたコーチングやコンテンツを組み合わせる総合的アプローチを取り入れている。米ジンジャー(Ginger.io)のプラットフームではオンラインセラピーや精神科のセッション、習慣の改善指導、セルフケアコンテンツなど一連のメンタルヘルスサービスを提供している。同社のサービスではヘルスコーチが個人のニーズに基づき、臨床効果が実証されているセルフケアコンテンツ「アクティビティーカード」を与える場合もある。同社は19年8月、シリーズDの資金調達で3500万ドルを調達した。最近はオンラインセラピーの人気が高まっているが、直接の交流に焦点を当てた解決策に取り組んでいる企業もある。例えば、米ツーチェアーズ(Two Chairs)は実際に精神科クリニックを運営している。同社は個人とセラピストとの関係に焦点を当てている。同社は患者に合うセラピストを見つけるため、セラピストの臨床治療の評価に加え、自前のソフトウエアのアルゴリズムも活用している。診療所の運営にはコストがかかり、管理業務も発生するため、セラピストの負担になる可能性がある。米アルマヘルス(Alma Health)はメンタルヘルスの専門家向けに会員制の共有ワークスペースを提供している。会員はこのスペースを使って個人やグループのセラピーを実施できる。アルマの請求や予約サービスも活用できるメンタルヘルスの分野では、電気刺激を与えて脳の神経活動を調節するウエアラブル機器が普及しつつある。研究者はこの「ニューロモデュレーション(神経調節)」を活用し、重い精神障害を治療したり、利用者にさらに健康効果をもたらしたりしたいと考えている。例えば、韓国に拠点を置くワイブレイン(Ybrain)はうつ病などの精神疾患にニューロモデレーション療法を施す自宅用ウエアラブル機器を手がける。同社の累積調達額(公表ベース)は1500万ドルだ。このテクノロジーにより、精神疾患の治療だけでなく、健康効果を促す新しい一般向け製品も可能になっている。こうした製品の多くは脳波(EEG)センサーを使って脳の電気活動を測定し、個人に応じたアプローチを生み出すことでリラックスした状態やマインドフルネスな(目の前のことに集中した)状態を実現する。カナダのミューズ(Muse)のヘッドセットを使えば、瞑想(めいそう)中の自分の状態の進歩を追跡できる。英コクーン(Kokoon)や仏ドリーム(Dreem)もこうしたセンサーを使い、一人ひとりに応じたリラクゼーションをもたらす。こうした機器は主要データを収集・測定し、健康に関する知見をもたらす消費者向けウエアラブル端末が増える傾向にあることを示している。一人ひとりに応じたセラピーを提供するため、こうした機器にVRなど他の新興テクノロジーが搭載されるようになっている。心の健康や幸せを実現するためにARやVRの利用が広がりつつある。特にストレスや、不安、気分の落ち込みへの対応に使われている。米ヒーリアム(Healium)は予防医療のアプローチから拡張現実(AR)/VRを使ってストレスや不安、痛みをコントロールし、病気になるのを防ぐ。同社はウエアラブル機器を使って脳波や心拍数など生体情報を取得し、個人に応じた体験をつくりだす。このデータはヒーリアムのプラットフォームに取り込まれ、利用者の気分についての具体的な知見を提供する。VRもセラピーの一環としてメンタルヘルスの専門家に広く使われるようになっている。例えば、スペインのサイアス(Psious)はセラピストがセラピーで使い、社会不安障害や摂食障害、ストレス障害などを治療するVRプラットフォームを開発した。同社の累積調達額は1000万ドルだ。これらのテクノロジーはいずれも心の健康や幸福をより強力にサポートする新しい選択肢だ。こうした新しい製品やサービスにより、ネットとリアルの両方で高度に個別化された使いやすいメンタルヘルスケアが可能になるだろう。

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