新型コロナ用抗体、研究者に無償提供へ 琉球大系


琉球大学発スタートアップのRePHAGEN(リファージェン、沖縄県うるま市)は、同社が取得した新型コロナウイルスに対する抗体(VHH抗体)を、希望する研究者に対して無償提供する方針を明らかにした。ウイルスの表面にある突起状のスパイク(S)タンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)に結合するVHH抗体で、同社が保有するライブラリーから有効な化合物を選択するスクリーニングをして得られたVHH抗体を、試験管内で進化させて結合しやすくした。研究用の試薬として広く活用してもらいたい考え。RePHAGENとしても、企業などと共同研究を進めて検査薬や治療薬への応用を進める方針だ。VHH抗体は、アルパカなどが持つ重鎖抗体という特徴的な抗体の可変領域部分を切り出したもので、通常の「IgG」型抗体とは異なり単鎖のみで抗原に結合する。そのため大腸菌などでの作製が容易で、遺伝子情報さえあれば簡単にVHH抗体を取得でき、酵素免疫測定法(ELISA)やウエスタンブロット法によるタンパク質の検出実験などに活用できる。代表の村上明一氏は2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が発生した際、留学先の米ダナ・ファーバー癌研究所でいち早くSARSのコロナウイルスに対する中和抗体を作製した実績を持つ。その際に得られた抗体もRBDへの(病原体を見分けられる)特異性が高いものだった。村上氏は「SARSはすぐに終息したが、今回その経験が役に立てないかということで試したところ、提供できる性能の抗体が取れた」と話す。RePHAGENは、公共データベース「Genbank(ジェンバンク)」にアップされている新型コロナウイルスの塩基配列を基に、Sタンパク質のS1サブユニットを自社で作製し、これを抗原として自社のVHH抗体ライブラリーからRBDに対する特異性の高いVHH抗体を選びだした。さらに相補性決定領域(CDR)の一部をシャッフルするなどして結合能をより高めている。S1サブユニットはウイルスがヒト細胞に侵入する際に、ヒト細胞の「ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)」に結合するため、得られる抗体はウイルス本来の作用を失う中和活性を持つ可能性が高い。まずは、VHH抗体の遺伝子情報と大腸菌によるVHH抗体の発現・精製方法をデータで提供する方針。また、希望があればVHH抗体の遺伝子を「プラスミドベクター」と呼ぶDNAに封入した形で郵送したり、VHH抗体そのものを送付したりすることも対応可能だという。RePHAGENのウェブサイトで、近く受け付けを開始する。このVHH抗体については、新型コロナウイルス検査薬の開発を目的として、複数社から共同研究の打診があるという。抗原抗体反応以外に、新型コロナウイルスの有無を調べるPCR検査前のウイルス濃縮にも活用できる可能性がある。新型コロナウイルスはPCR検査でも偽陰性が出るように検出がシビアだが、村上氏は「ビーズにVHH抗体を固定すれば、喀痰(かくたん)などの検体からウイルスを濃縮する前処理にも応用できそうだ」という。(日経バイオテク 野村和博)

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