京都アニメーションでの放火殺人事件で注目された重いやけどの治療の一つに、患者の細胞から作る「自家培養表皮」移植がある。富士フイルムの子会社、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(愛知県蒲郡市)が手がける「ジェイス」は国内初の再生医療品として2007年に国の承認を受け、やけどの体表面積が30%以上の重症熱傷に使われている。【菅沼舞】患者の脇やそけい部など、ダメージを受けていない部分から切手大の皮膚を採取し、表皮細胞を分離してはがき大の大きさ(8×10センチ)に培養する。200枚あれば成人男性の全身を覆える計算だ。患者自身の細胞を使うため拒絶反応や未知のウイルス感染の心配が少ない。保険適用前は治療に約1000万円かかるケースもあったが、09年1月から保険が適用され大幅に安くなった。細胞培養に446万円、移植時に1枚当たり約15万円が保険でカバーされる。現在は先天性巨大色素性母斑、表皮水疱(すいほう)症の治療にも保険が適用されている。だが、重症熱傷の場合は保険適用の上限とされている50枚では到底足りず、100枚以上移植されるケースもある。50枚を超える分は同社が無償提供しており、日本熱傷学会などを通じて適用拡大などの改善を求めている。また、京アニのように多数の熱傷患者が生じる事件や事故は突発的に起きるため、計画生産できないことも悩みの一つだ。培養技術は職人技の部分が大きいため人件費を削ることは難しく、同社では工程の一部自動化を検討している。ジェイス開発最高責任者の井家(いのいえ)益和研究開発本部長は「将来は軽度の熱傷への提供など、患者のQOL(クオリティー・オブ・ライフ、生活の質)に関わる治療にも役立てたい。再生医療が普通の治療になれば」と話す。