大きな音や強い光で気分が悪くなったり、服の縫い目で刺すような痛みを感じたり。「感覚過敏」のある人は、外部からの刺激に過敏に反応してしまい、日常生活に困難が生じる。だが、周囲から分かりにくいため、わがままや我慢が足りないと誤解されがちだ。当事者らは「多くの人に知ってほしい」と訴える。
福岡県古賀市に住む長崎幹奈子(みなこ)さん(35)の小学2年の長女(7)は味覚と聴覚、触覚が過敏だ。苦味や酸味を異常に強く感じ、給食を食べるのが難しい。騒がしい場所は、音がシャワーのように一斉に耳に入ってくるため苦手だ。
服選びにも苦労する。ピタッとした服やズボンは苦しくて着られない。デニムのような硬い素材やタグ、縫い目はチクチクして嫌がる。長崎さんは「ようやく探し当てた服も、洗濯で肌触りが変わると着られなくなる」と説明する。
学校再開後、つらいのがマスクを着用しなければならないことだ。素材や縫い方を工夫したマスクを何とか着けているが長崎さんは「ストレスのためイライラや疲れがたまっているようだ」と見る。
感覚過敏は視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚など全ての感覚領域で起こり、症状や度合いは人によって大きく異なる。自閉症スペクトラム障害(ASD)など発達障害のある人に多く見られる特性だが、脳卒中など脳の病気や認知症、うつ病などによって起こることや原因が分からないこともある。
発達障害者の感覚過敏を研究する国立障害者リハビリテーションセンター研究所の井手正和さんは「感覚刺激を脳がどのように受け取るかの違いで感覚過敏が起こることが多い」と説明する。目や耳で受け取った情報を実際に認識しているのは脳だからだ。
通常、音や光などの刺激を受けると、脳は刺激のボリュームを調整する。だが、ASDの人の中には、脳の神経のつながりの強弱をうまく調節できない人がいる。周りの雑音を全て聞き取ってしまい、隣にいる人の声が紛れ、会話が難しくなるというのが一例だ。
研究では、神経の興奮を抑える働きが低下することで、感じ取れる刺激の頻度が高まっていることも分かってきた。例えば、通常は目に見えない早さで点滅している蛍光灯を「チカチカしてまぶしい」と感じるという。井手さんは「まだ解明されていないことが多く、治す薬もない。周囲が理解し、刺激を軽減するための配慮や工夫をしていくことが大切だ」と語る。
感覚過敏がある人が暮らしやすい社会にしたい-。千葉県に住む中学2年の加藤路瑛さん(14)は1月に「感覚過敏研究所」を立ち上げた。自身も当事者で、食べ物のにおいをかぐと気分が悪くなり、飲食店に入れない。甲高い声を聞くと頭痛がする。
会員制交流サイト(SNS)で募った仲間とともに、感覚過敏の特徴を伝えるキャラクターとマークを作成。触覚過敏でマスクが着けられない人向けの意思表示カードや、店舗や施設で掲示できるポスターも作成し、ホームページで無料公開している。
加藤さんは「例えば、マスクを着けない人を見たときに『何か理由があるのかも』と想像してほしい。誰もが感覚が違うと知り、互いに認め合える社会になればうれしい」と話している。(新西ましほ)