患者が使用していない時間帯の磁気共鳴画像装置(MRI)を活用した低価格の脳ドックに、福岡県内の医療機関が取り組んでいる。日本は人口当たりのMRIの台数が諸外国に比べて多く、需要に見合わない過剰な設備投資との指摘もある。人口減に備え医療機器も効率的な活用が求められる中、新たな取り組みとして注目を集めそうだ。
「まえだ整形外科 博多ひざスポーツクリニック」(福岡市博多区)では、10月から週に3日、昼休みの時間を使って脳ドックを始めた。ここで行うのは診療放射線技師によるMRIの撮影だけ。撮影した画像はその後、放射線科と脳神経外科の医師が遠隔で読影し、異常がないか確認する。
「貸し会議室みたいな仕組みでしょう」と前田朗院長。通常はけがや関節痛などを主に診療しており、脳は専門外。当初は「整形外科で脳ドックを実施するのは無責任なのでは」と思ったという。ただ読影がダブルチェックであることや、異常があれば自身が地域の専門医に紹介できる仕組みに納得して参加を決めた。高性能のMRIを医療資源として役立てたいとの思いもあった。
この「スマート脳ドック」事業を企画し運営するのは「スマートスキャン」(東京)。濱野斗百礼(ともあき)社長はバスやトラックの運転手が脳疾患に見舞われ事故を起こしたという報道に触れ、脳ドックがもっと安価にできればいいと感じていた。
一方でMRIは昼休みや診療後など使わない時間帯がある。濱野社長は「(モノやコトを共有する)シェアリングエコノミーの概念を医療にも取り入れたい」と2017年に起業。福岡県内3カ所、都内1カ所の医療機関で実施している。
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「過剰投資を防止する観点からも配置の検討が必要」-。財務省の18年度の予算執行調査で、MRIはそう指摘された。財務省の資料によると日本の人口10万人当たりのMRI台数は5・2台。OECD加盟国の平均1・6台の3倍超だ。あまり使われず過大投資になっている医療機関もあり、都道府県も効率的な活用の検討を始めている。
九州大大学院の馬場園明教授(医療経済学)は「医療資源の有効活用と言える。患者は低価格で受けられ、医療機関には新たな収入源になり、双方にメリットがある」とした上で、「取り組む医療機関が増えた場合も、医療過誤などがあったときの責任の所在がどこなのか明確にすることが重要だ」と話す。
脳ドックの全国平均の価格は4万4千円ほど(NPO法人日本人間ドック健診協会、13年公表)。スマート脳ドックは1万9250円。血液検査などは行わず、頭頸部(けいぶ)の画像検査だけに特化した仕組みを作り、予約や事前の問診、結果通知をサイト上で行うことで人件費を抑えている。濱野社長は「疑わしい所見があれば精密検査を勧め、検査の質を高めている。受けられる医療機関を増やしていきたい」と語る。(斉藤幸奈)