記事の無償点訳41年 自ら学び激励を力に 増えるカタカナが悩みの種


 福岡県田川市のボランティア団体「田川点訳サークル『コスモス』」は41年前から、新聞や雑誌などの記事を視覚障害者向けに点訳し、希望者に月1回郵送する活動を続けている。会長の長谷川香さん(70)は「読んでもらえそうな記事はないか考えながら、私たちも新聞や雑誌を読み、世の中を知る学びのきっかけになっている」と語る。

 コスモスは、市社会福祉協議会が主催した点訳教室の受講生を母体に結成。現在は40代~70代の女性11人が、記事の選定や点訳、郵送作業を手分けして行っている。すべて手弁当だが、点字を打つための特殊な紙(1枚5円程度)は、同市などから年間約1万枚提供を受けている。

 週1回、スマイルプラザ田川に集まり、編集会議のほか、点字を打つ作業などを約2時間行う。長谷川さんは「各自、ほぼ毎日数時間は自宅で点訳作業をしてます。そうしないと追いつかない」と苦笑する。

 読者に高齢者が多いことから、記事は健康や料理のほか、相撲や旅に関する物やエッセーなどが好まれるという。送られてくる記事が「月に1回の楽しみ」という平塚春喜さん(73)=同市=は「1週間くらいで読んでしまうから、次が待ち遠しい」と話す。寝つけない夜の良き相棒として何度も読み返し、そのまま眠りにつく利用者も多いという。

 一方で最近、カタカナ語の多さが悩みの種という。新型コロナウイルスの影響で、「ソーシャルディスタンス」や「クラスター(感染者集団)」などの聞き慣れないカタカナの専門用語が急増。意味を知らない読者も多いため、毎回注釈をつけて点訳している。メンバーの城戸常子さん(72)は「カタカナ語だけでなく、『SDGs』(持続可能な開発目標)など英語の略語を何の説明もなく書いている記事も多い」と困惑を隠さない。

 ただ、読者からは「頑張って」「いつも楽しみです」などの声が寄せられ、城戸さんは「一つ一つの声が私たちの力になっています」と前を向く。コスモスは毎年、複数の地元小学校に点字の出前授業に赴くなど、子どもたちと視覚障害者のふれあいの場作りにも力を注いでおり、長谷川さんは「教室を通じて、若い世代に視覚障害者や点字が身近な存在になってくれたら」と願う。新規の読者と点訳作業を担う会員を募集している。市社会福祉協議会=0947(44)5757。 (吉川文敬)

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