医療従事者の負担軽減のはずが…福岡県のコロナ支援事業


医療現場の負担大

 新型コロナウイルスの感染患者を入院させた医療機関に患者1人当たり30万円を支給する福岡県の独自事業で、支給対象となる「疑似症患者」の届け出を巡り、混乱が生じている。感染症法上の疑似症患者と認められるには、診療後に所定の書類をつくり、保健所に届け出なければならないが、医療現場には十分周知されず、余裕もない。届け出事例はわずかにとどまっており、現場からは「しゃくし定規な対応はおかしい」との声が上がっている。

 福岡県は5月、感染患者を入院させた病院に対し、「必要な費用や医療従事者の心身の負担軽減」を目的に支援事業を新設。期間は来年3月まで。対象は陽性患者に加え、疑似症患者として保健所に届け出ていることが条件になる。

 実際、医療現場では感染の疑いがあると医師が判断した患者に対し、PCR検査の結果が出るまで消毒や防護対策を行いながら治療してきた。結果的に陽性ではなくても負担は大きい。

 問題は手続きだ。複数の医療機関関係者によると、診察や感染防止策を施しながら、所定の書類作成や保健所へのファクスをする余裕はなかったという。北九州市の医療機関幹部は「市中や院内感染防止を優先しており、届け出について行政側からの指摘もなかった」と明かす。

 保健所へは、陽性が判明した患者のみを届け出るケースが大半とみられ、疑似症患者の届出数は、今月12日までに北九州市は10件、福岡市は7件(6月末まで)にとどまる。

 厚生労働省は「疑似症患者まで保健所に届け出る余裕がなかったという現場の実情は理解している。発生プロセスを把握する目的から、届け出はお願いしたい」(結核感染症課)としている。

 両市にある八つの病院は今月上旬、「届け出をしていなければ支援対象とならないのはおかしい」として、県議会などに見直しを求める要請書を提出。県の対策本部事務局は「疑似症患者の届け出が県にもほとんどなかったのは事実だが、支援するにはどこかで線引きが必要だ」と、現状では見直さない方針だ。

 北九州、福岡両市にも同様の支援制度があり、医療機関の判断で県か市の制度を選択できるという。県と同様、疑似症患者と届け出た場合に支給する北九州市は「疑い患者も、結果的に陽性者と同じような対応を医療機関はしてきた」として実施要綱の見直しを検討中。福岡市は「陽性患者のみ対象」としている。 (竹次稔、黒田加那)

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