飯舘村の看護師星野勝弥さん(67)は東日本大震災と東京電力福島第一原発事故発生後、村内初となる訪問看護事業に乗り出す。自宅を事務所に改装し、自宅療養する地域の高齢者を看護する「あがべご訪問看護ステーション」を八月三日に開所する。星野さんは東京都出身。東京大を卒業後、国語の教員となり都内の高校で約三十年教壇に立った。転機が訪れたのは五十五歳。「キリスト教の牧師だった両親のように困っている人の役に立ちたい」との思いから、医療の道へ進むことを決意した。東京都立大の看護学科で学び、還暦を目前に教職から看護師に転身した。都内の病院で働く中で、在宅医療を続ける高齢者のケアの重要性に気付いたという。原発事故で被災した地域は、その課題がより鮮明になっていると考えた。二〇一七(平成二十九)年、原発事故の避難指示が一部を除き解除されたばかりの飯舘村に一戸建てを購入し、移住した。村の地域包括支援センターで保健師として働き、帰還した高齢者や訪問介護や避難している高齢者の見守り活動などに従事した。村の人口は七月一日現在、五千三百四十九人。村内に居住しているのは千四百六十五人でその内、六十五歳以上の高齢者は八百二十一人と高齢化率は五割を超える。村内の医療機関は送迎サービスなどを実施しているが、星野さんは保健師の業務を通じ、訪問看護を求める多くの声を聞き、事業開始に向けた準備を進めてきた。「あがべご」の由来は神の人間に対する愛を意味するギリシャ語のアガベーと村が畜産業が盛んだったことから「べこ」を合わせた。星野さんの他に看護師三人と事務担当者一人が勤務する。村内のいいたてクリニックや住民がかかりつけとなっている近隣市町の医療機関と連携し、たんの吸引や摘便などの医療行為や入浴の介助などに取り組む。星野さんは「じいちゃん、ばあちゃんが安心して暮らせる環境にしたい」と張り切っている。