柳井氏100億円寄付から見えた大学の厳しい研究費事情


今年6月、衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が京都大に個人として総額100億円を寄付すると発表した。企業家による研究者への巨額私財援助は大きな話題を呼んだ一方、改めて浮き彫りになったのは、研究資金の先細りが続く中、寄付を呼び掛けなければ十分な研究体制が維持できないという大学の研究現場の厳しい現状だ。(桑村大)ノーベル研究に100億円支援「医学の最大の問題はがんとウイルスだと思う。人類のために研究する2人を微力ながら援助したい」6月24日に行われた記者会見で、京都大の本庶(ほんじょ)佑・特別教授と山中伸弥教授の両ノーベル賞受賞者と並んで会見を行った柳井氏は誇らしげに語り、こう強調した。「本庶先生も山中先生も私利私欲なく、一生をかけて世界のために研究している。世の中を良くしたいという思いでは変わりない」寄付金は、本庶氏と山中氏がそれぞれノーベル医学・生理学賞を受賞したがん免疫療法や人工多能性幹細胞(iPS細胞)に関わる最先端の研究に、50億円ずつ充てられる。両氏はそれぞれ感謝の意を示した上で、山中氏は、「生涯をかけて貯めてこられた重いお金を研究費としてもらい、ありがたく、重い責任も感じる」と述べた。使いやすい研究費をただ、今回の寄付に喜んでばかりもいられない。会見で本庶氏が「国費は年度ごとに決算され、繰り越しできない。使途にも制約があり、長期にわたる展望は望めない」と訴えたように、巨額資金援助は、大学の研究費をめぐる厳しい現状に改めて焦点を当てることとなった。両氏はこれまでも長期的な視点が必要な基礎研究の重要性を訴え、それを支えるための寄付を募ってきた。本庶氏はノーベル賞の賞金を原資に、若手研究者を支援する基金を設立。山中氏も寄付募集のため、各地のマラソン大会に出場する姿が恒例となっている。続きを読む

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