「医学部に強い」中高一貫校人気 外科手術の体験実習も


医学系学部への進学実績に定評がある私立中高一貫校が、変わらぬ人気を集めている。手厚い進学指導に加え、コロナ禍のもと、医療で社会に貢献したいという若者の意識の高まりも背景にあるという。(柏木友紀、宮坂麻子)「娘は小さい頃から医師になりたくて、こちらは医学部への進学者も多いので志望しました」2月2日午前、豊島岡女子学園中(東京都豊島区)の校門前で、入試に臨む娘を見送った母親は話した。1月に試験があった千葉県の難関中に合格していたが、2月1日は桜蔭中(文京区)、2日は豊島岡と、医学部への進学実績により定評のある私立中高一貫校への進学を希望していた。別の受験生の母親は「娘は生物が好き。豊島岡は医学部をはじめ獣医学や薬学など理系に強いので」と話す。3日の第2回、4日の第3回とも、合格するまで受験する覚悟を語った。今回、豊島岡の計3回の入試の受験者は計2078人で前回を上回った。同校によると、高校からの入学者と合わせて計約350人の高3生の約7割が理系志望で、このうち医学部医学科の志望者は90人ほど。その割合は近年増えているという。昨年度実施の大学入試の合格実績を見ると、卒業生338人のうち、医学部医学科にのべ121人(既卒を含めると181人)が合格した。このほか薬学部にのべ115人、農学・獣医学部に同45人、歯学部に同18人が合格している(いずれも既卒含む)。「特に医学部に特化しているわけでないが、2018年度からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定校にもなり、科学的思考が育つ機会を多く設けている」と同校進路指導委員会主任の十九浦(つづうら)理孝(まさたか)・教務部長は言う。高1、2年では仮説をたて、実験、分析、検証を進める探究活動の課題に取り組む。科学、技術、ものづくり、芸術、数学を総合的に学ぶ「STEAM教育」を意識しており、「正解だけを求めず、失敗から学ぶ経験を与えたい」という。中3から夏・冬の長期休みに講習を実施、加えて高3では受験直前の1~2月に、「東大数学」「医学部英語」など大学や学部別、教科別に予想問題を解く講座を実施している。先輩から進学先選びや勉強法などを学ぶ講演会には毎年、医学部の1年生を講師に迎える。東京医科歯科大との高大連携プログラムがあり、研究室を訪問する機会も設けている。医師の仕事を体験する機会を設けているのは、駒場東邦中(世田谷区)だ。医学部志望の中3生を対象に2016年度から、最新の外科手術の内容を体験する実習「ブラック・ジャックセミナー」を、近くの東邦大学医療センター大橋病院で始めた。内視鏡手術や超音波メスの扱い方などを、外科医とともに体験する。18年に同病院が新築され、学校説明会などでセミナーの紹介をすると、興味を持つ生徒が増えた。こうした活動は、学校の人気アップにも貢献しているようだ。13年度入試で686人だった受験者数は一時、500人まで落ち込んだが、21年度は623人に増加。2月1日に同校を受験した川崎市の男子生徒は「外科医になりたい」。世田谷区の男子生徒も「漫画『ブラック・ジャック』が好きで、外科医にあこがれている」と語った。堤裕史教頭は「コロナで医学への関心が高まる中、卒業生や東邦大関係の医師がテレビ出演した影響もあるのだろうか」と話す。東邦大医学部への推薦枠も、東邦大付属東邦高(千葉県習志野市)と合わせて20人程度あるが、駒場東邦からの志望者は毎年4、5人ほど。堤教頭は「全体では国公立大理系志望者が多く、医学部も国公立大を狙う生徒が多い」と説明する。医・歯学部の合格者は18年度が101人で、19年度は124人に増えたという(いずれも既卒含む)。入試や進学情報を調査している大学通信の安田賢治常務によると、医学部系への高い合格実績が目立つのは私立の中高一貫校だ。特に難関の女子校では、理系の受験生の多くが医学部を志望する傾向がある。大学通信の調べでは、昨年度は桜蔭高(卒業生229人)では42人が国公立大医学部、124人が私大医学部に合格した(既卒含む)。雙葉高(千代田区、同169人)では、医学部に65人、歯学・薬学・看護・獣医学部に16人が合格した(同校調べ、既卒含む)。女子学院高(千代田区)では過去3年間の卒業生の18%が医・歯・薬・保健・看護学部に進学している(同校調べ)。男子校では開成高(荒川区)、海城高(新宿区)、巣鴨高(豊島区)、暁星高(千代田区)、独協高(文京区)などが、医学部の合格実績が高い。安田さんは「コロナ禍でも医学部系の志願者数は減っておらず、ワクチン開発などへの期待からか、薬学部では志願者をかなり増やした大学もある。不況への不安がのぞく中、専門職の強みに加え、若い世代の間で社会貢献の意識が高まっていることも背景にあるのではないか」と分析する。(変わる進学)医師をめざす中高生は、何をしておいたらいいのか。医系専門予備校メディカルラボ・本部教務統括の可児良友さんに聞いた。◇医学部、特に国公立の志願者数は近年横ばいか減少傾向で、今年度も大学入学共通テストで高得点層が減少したためか、最終的な出願数はほぼ横ばい。コロナ禍で受験生が受験校数を絞り込み、私立は志願者を減らす大学もあるが、のべ志願者が減っただけのようだ。ただ、入試改革に伴って21年度の入試問題はかなり変わった。自治医科大は2次試験に記述式の学力検査を追加し、国公立の前期試験をみても、記述量の増加や思考力や判断力などを今まで以上に要求する出題が目立つ。量をこなして知識を詰め込めば合格できる時代ではなくなっている。中学から、丸暗記ではなく、なぜそうなるのかについて理解を伴う勉強法が求められる。高2の終わりまでに、英語・数学・理科の高3までの履修範囲の基礎固めは終え、志望校を決めて、その大学の過去問を買う。医学部は大学によって出題内容がかなり異なるので、高3の1年間は、志望校にあった応用問題に取り組むのが理想だ。また、面接も、面接担当者を次々と変えて行う複数回の個人面接や「集団討論2回と個人面接」など、深く掘り下げる大学が増えている。高校の調査書を合否に活用する大学もあり、生徒会、ボランティアなどの活動実績も大切だ。成績が良くても医師としての適性のない生徒は不合格になり、合格できても中退する例もある。本当に医師になって患者を救いたいのか、よく考えて志望して欲しい。

関連記事

ページ上部へ戻る