精製水買い占めで品薄、人工呼吸器使う難病患者に戸惑い


新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、人工呼吸器の稼働に必要な精製水が各地の薬局で買い占められ、品薄状態となる事態になっている。精製水を材料にアルコール消毒液を作る方法がインターネット上で広まったことが原因とみられ、在宅で人工呼吸器を使う難病患者から戸惑いの声が上がっている。健康な人の呼吸では、吸い込んだ空気は気道を通る際、温められた上、加湿された状態で肺に送られる。乾燥した空気が直接入って気道や肺が損傷するのを防ぐためだ。同様の理由で人工呼吸器も酸素を体内へ送り込む際、加温加湿する必要があり、専用の装置に水分を補給しながら利用する。水道水は成分に塩素やミネラルが混じっているために装置を傷つける恐れがあり、多くの呼吸器メーカーは不純物が取り除かれた精製水の使用を推奨する。ところが、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化した4月上旬ごろから、精製水が品切れとなる薬局が各地で続出している。在宅で人工呼吸器を使う難病患者らから「複数の店を回っても買えない」との相談が、製薬会社や病院に寄せられるようになった。人工呼吸器の利用者の中には、精製水の代わりに煮沸した水道水を使う患者もいるが、千葉県市川市の診療所で筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの難病患者を受け持つ吉野英医師は「煮沸した水を使えば加温加湿装置が損傷する可能性がある。そうなればガスが漏れ、患者が設定通りの呼吸ができなくなる恐れが出てくる」と指摘する。水道水を使い続けて装置の交換頻度が上がれば、患者の費用負担が増えることも考えられるという。品切れが続く原因について、精製水の生産を手掛ける昭和製薬(大阪府守口市)は、アルコール消毒液の作り方として「精製水と無水エタノールを混ぜれば消毒効果が得られる」といった情報がネット上で拡散したことを挙げる。さらに、この情報を誤って認識した消費者が、本来は単独で使える消毒用エタノールに、わざわざ精製水をセットで購入するケースも多発している。こうした消費者から「消毒用エタノールと精製水の混ぜ方を教えてほしい」との問い合わせが連日100件以上も同社に相次いでいるといい、担当者は「ドラッグストア側が、誤った組み合わせでセット販売していることさえあった」と話す。同社は現在、精製水の生産量を通常の約2倍に引き上げて対応中だが、容器の調達が追いつかず、さらなる増産は難しいという。担当者は「精製水を必要としている難病患者のためにも、消毒液を手に入れたい場合は正しい知識を持って商品を買ってほしい」と呼び掛けている。【李英浩】

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