拡張する脳:機械に意識を「移植」 東大発ベンチャーの挑戦


生身の体が死んでも、機械の中で目覚めて生き続ける――。東京大発のベンチャー企業が、人の意識をコンピューターに「移植」する「マインド・アップローディング」の技術開発に取り組んでいる。「死」を逃れるという究極のブレーンテックが、本当に実現できるのか。この会社を起業した渡辺正峰・東大准教授に聞いた。――人の意識をコンピューターに「移植」できるのでしょうか。◆できると考えています。脳の神経細胞「ニューロン」一つ一つの電気的な信号を伝える働きは、そこまで複雑なものではありません。ニューロンが膨大に集まった脳は「少し手の込んだ電気回路に過ぎない」と言うことができます。その電気回路を機械上に再現できれば、そこにも意識が宿ると考えられます。意識について研究しているオーストラリアのデイビッド・チャーマーズ博士は、ニューロンを一つずつシリコーン製の人工ニューロンに置き換えた場合、すべてが置き換わっても意識が残るという思考実験を発表しています。――理論的に可能でも、技術的には困難に思われます。どのような方法があるのでしょうか。◆例えば米マサチューセッツ工科大発のベンチャー企業「ネクトーム」は、死亡した直後の人の脳を取り出してから、ニューロン同士がどう結合しているのかを読み取り、その情報をコンピューター上にコピーすることで意識を移植しようとしています。しかしこの手法では、移植されるのは死後の脳の情報です。仮に意識が移植できたとしても、主体としての連続性はありません。読み取り精度にも限界があります。私は、人が生きているうちに脳と機械をつないで意識を統合し、記憶まで機械に転送する方法を提案しています。――「機械に意識が宿る」とはどういう状態のことを指すのでしょうか。◆私は、機械に意識が芽生えたのかテストする方法を考えました。人の脳には「右脳」と「左脳」があります。それをつなぐ「脳梁(のうりょう)」という神経線維の束を切断して分離すると、右脳と左脳でそれぞれ意識が生まれることが、米国のノーベル医学生理学賞受賞者、故ロジャー・スペリー博士の研究で分かっています。私たちが左右の視野を一つの景色として見られるのは、脳梁を通して左右それぞれの意識が統合されているからです。そこで片方の脳を機械に差し替えて、それでも左右の視野を一つの景色として見ることができれば「機械の方にも意識が芽生えた」という証明になると考えています。――脳と機械を接続する方法があるのですか。◆脳梁に平板な電極を差し込み、機械の脳と統合する新たな方法を考案しました。意識を移植する上で重要なことは、機械側に「記憶」をきちんと転送できるかです。そうでなければ機械の中で目覚めても、自分かどうかは分からないですよね。この電極は、新たな「ブレーン・マシン・インターフェース」(脳と機械をつなぐ技術、BMI)として、特許取得に向けた国際出願…

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