脳内に蓄積する異常たんぱく質を可視化 日本の研究チームが発表


脳内に蓄積し、運動機能や自律神経機能に障害をもたらすとみられる異常なたんぱく質を、陽電子放射断層撮影(PET)で可視化できる薬剤を開発したと、量子科学技術研究開発機構・量子医科学研究所(千葉市)などの研究チームが31日、米医学誌ムーブメント・ディスオーダーズに発表した。このたんぱく質を可視化できたのは、世界で初めて。早期診断や、治療薬の開発に役立つことが期待される。異常なたんぱく質は「アルファ(α)シヌクレイン」。脳内の神経細胞などを壊すことでパーキンソン病やレビー小体型認知症、運動機能や自律神経機能に障害をもたらす「多系統萎縮症」の原因と考えられている。これら三つの病気は症状が似ているため、診断に限界があり早期発見は難しかった。これまでは、死亡した患者の脳を調べることで確定的な診断をしていた。そこで研究チームは、別の異常なたんぱく質に結びつく既存の薬剤の構造を、少しずつ変えていった結果、αシヌクレインに強く結合する物質を見つけた。体内で長時間安定して存在し、脳内へ運ばれる薬剤として開発した。多系統萎縮症の患者3人と、健常者1人を対象にこの薬剤を使い、PETで脳内を検査したところ、どの患者でも症状によって脳深部や小脳にαシヌクレインが多く蓄積している様子が画像からうかがえた。この結果は、死亡した患者の脳を使った研究結果と一致するという。この薬剤を使うことで、αシヌクレインの蓄積量などから病気の重症度を客観的に調べられたり、今後開発が見込まれる治療薬の効果を確認できたりする可能性がある。研究チームは今後、パーキンソン病やレビー小体型認知症患者でも調べる方針という。臨床研究も進め、検査薬として実用化を目指す。研究チームの樋口真人・同研究所脳機能イメージング研究部長は「患者の検査だけでなく、αシヌクレインが蓄積する過程や、蓄積しても発症しない人などを調べることで、発症メカニズムの研究に役立つ可能性もある」と話した。【渡辺諒】

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