コロナ専門、大阪・十三市民病院が治療本を緊急出版


新型コロナウイルスの感染が急拡大する中、中等症専門の大阪市立十三(じゅうそう)市民病院(淀川区)が9日、実践的な患者の治療方法をまとめた本を出版した。医療従事者向けだが一般の人も書店などで購入できる。同病院が新型コロナに関するマニュアル本を出すのは8月に続いて2冊目で、西口幸雄院長は「これまでに積み上げた治療経験の結晶。他の病院の参考になれば」と話している。(小泉一敏)同病院は5月から新型コロナの中等症専門となり、「医療崩壊させないための最後の砦(とりで)」(松井一郎・大阪市長)として稼働している。医師らは本来の専門に関係なく新型コロナの患者に対応し、試行錯誤しながら12月初めまでに約550人の治療を行ってきた。今回出版したのは「大阪市立十三市民病院がつくった 新型コロナウイルス感染症もっと対応BOOK」(照林社)。原案は、看護師らが院内で活用していた手作りのマニュアルだ。同病院では、各自が日々の看護を通じて得た知識や工夫を紙に記入。疑問があれば解決方法を医療用テキストなどで調べて補足し、ホチキスでとじた冊子にして情報共有を図ってきた。同病院は8月にも、現場の医師や看護師の経験をまとめた「対応BOOK」を出版。これを読んだ医療従事者らから「重症になっていく状況を早くつかむコツは」「患者の正面からたんを吸引するとせき込まれて飛沫(ひまつ)を浴びてしまうが、どう対応すればいいか」など、実際の治療例について知りたいとの声が多数寄せられた。同病院も一時60床中50床が埋まるなど医療体制が逼迫(ひっぱく)するさなかだが、こうした要望に後押しされ、1冊目から約4カ月でのスピード出版にこぎつけたという。「もっと対応BOOK」はB5判112ページ。重症化を防ぐためのリスク管理や薬物治療、栄養管理などのノウハウを凝縮した。症状が悪化する患者を早期発見する方法や、重症から回復して中等症専門病院に転院してきた患者の治療記録などを盛り込んでいる。西口院長は「患者を少人数しか扱ったことがない病院では入院から退院までの流れが分からないこともあるし、患者へのアプローチに怖さもあるだろう。本には、うちで実際にやっている方法ばかりを載せた」と話す。過酷な勤務が重なり、11月末までに医師や看護師ら計32人が離職した同病院。残ったスタッフらは、先の見えない医療の最前線で奮闘を続けている。彼らの苦労や成果を本にまとめる取り組みの背景には、日々の経験が患者だけでなく社会全体の役に立つことを形にし、励みにしてもらいたいとの思いもあるという。西口院長は「治療を尽くした患者が亡くなれば看護師は涙するし、一生懸命に治療している。本は一人一人の患者に向き合った治療経験の結晶であり、自分たちの血と汗と涙の結晶でもある。それぞれの患者への対応は異なるが、困っている病院で役立ててほしい」と力を込めた。

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