かかりつけ医の制度化 政府の審議会で議論始まる/浅川澄一氏


かかりつけ医の制度化に向けた議論が始まった。コロナ禍でかかりつけ医のあいまいな存在が明らかになったことで、政権はやっと重い腰を上げ、各種の審議会で検討対象にした。目標となるのは英国やオランダなどの家庭医制度である。社会保障の基本政策を検討する全世代型社会保障構築会議(座長・清家篤 日本私立学校振興・共済事業団理事長)が5月21日に中間整理を公表した。勤労者皆保険や子育て支援と並んでかかりつけ医改革が並んだ。「かかりつけ医機能などの地域医療の機能が十分に作動せずに総合病院に大きな負荷がかかるなどの課題に直面した。かかりつけ医機能が発揮される制度整備を含め、機能分化と連携を一層重視した医療・介護提供体制等の国民目線での改革を進めるべきである」と指摘した。コロナ禍でのかかりつけ医の機能不全を真っ向から批判し、「機能が発揮される制度整備」が必要と説く。かかりつけ医にメスを入れる姿勢をこれほど直截に表現したことはないだろう。政権の意気込みが窺われる。財務省が糾弾岸田首相自身が4月13日の経済財政諮問会議で「かかりつけ医機能が発揮される制度整備など、医療・介護サービス改革の継続・強化に取り組む」と話した。同日に開かれた財務相の諮問機関である財政制度等審議会分科会で財務省が提出した資料では、さらに強いトーンで医療改革への意気込みが書き込まれている。コロナ禍で「発熱外来を実施する医療機関名の公表を地域医師会が拒んだため、発熱患者が円滑に診療受けられない状況が生じた」。 さらに「発熱患者を診察しなくても補助金の給付を受けられることになった」と、呆れた「幽霊病床」の実態まで叙述した。 不十分な診療態勢であり、「世界有数の外来受診回数の多さをもって、わが国医療保険制度の金看板とされてきたフリーアクセスは、肝心な時に機能しなかった」と批判した。患者がどんなに遠くの医療機関でも自由勝手に受診できるのがフリーアクセス。日本医師会が常日頃、世界でもまれな日本独自の「金看板」と自負してきた。それが機能しなかったという。あまりの「攻撃」に驚いたのか、医師会は2週間後に早速反論した。「患者ごとにかかりつけ医は異なり、患者にふさわしい医師が誰かを数値化して測定することはできない。医療費抑制のために国民の受診の門戸を狭めるということであれば認められない」と中川俊男会長は記者会見で述べた。かかりつけ 薬剤師並みにかかりつけ医の制度化は、かかりつけ薬剤師と同様に患者が特定の診療所に登録すること。現行のフリーアクセスはなくなる。患者と診療所の関係が複数でなく、一対一に固定化される。診療報酬が出来高払いから包括払いに変わり、より効率性が高まる。報酬が少なくなる医療機関も出てくるので、医師会は反対姿勢を崩さない。内閣府が主宰する規制改革の波もかかりつけ医の改革を迫っている。3月に開かれた規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策ワーキング・グループでは、特別養護老人ホームの入居者に対して、自宅で関わってきた訪問診療医、即ちかかりつけ医の診療を認めては、という提案が成された。既存の配置医に代って、馴染みの訪問医であれば、看取りへの道が広がる。今や「第2の自宅」でもある特養での穏やかな看取りは、入居者や家族にも歓迎される。患者と医師の関係を登録制で確立することにつながる。さらに、5月11日に立ち上がったコロナ対策を検証する有識者会議(座長・永井良三自治医科大学長)でも、病院への司令塔権限の強化などと共にかかりつけ医の在り方も議論されている。6月中には提言をまとめる。かかりつけ医の病院との連携不足やコロナ患者に十分な対応がとれていなかかったことから、抜本的な改革への道筋が示される可能性もある。8人の委員の中に、総合診療医(家庭医)を推進する日本プライマリ・ケア連合学会の草場鉄周理事長が名を連ねており、かかりつけ医の機能として家庭医を射程に入れた議論も起こりそうだ。浅川 澄一 氏 ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。

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