新潟県燕市の県立燕労災病院が、ものづくりが盛んな県央地域の特色を生かして進めている「医工連携」の取り組みで、第1弾となる製品が完成し、他の医療機関への販売も始まった。整形外科の手術時に用いる機器で、骨がずれないように安定させることと、固定のためにワイヤを巻き付けることが一つでできる。現場の医師の声が、地元企業の技術によって実際の形になった。 アイデアを出したのは、同病院整形外科医長の堀米洋二医師(38)。骨折の手術の際、骨折部の整復のために一時的に固定する「ローマン鈎(こう)」と、最終的な固定のためにワイヤを巻き付ける「ワイヤーパッサー」の二つの機器を使用することがある。狭い手術創の中でワイヤを巻く際に、ローマン鈎が邪魔になるなどし、不便を感じていたという。 同病院では2019年3月、燕三条地域を中心とするものづくり企業の関係者と初めての医工連携交流会を開催。その席で医師や薬剤師、作業療法士ら各分野の医療スタッフが、「こんなことに困っている」「こうなれば不便が解消される」といった20件以上のアイデアを発表した。今回製品化された「骨折部を把持したままワイヤリングできるローマン鈎」のアイデアもその一つだった。 交流会後、燕市医療機器研究会のメンバーが開発に着手した。研究会は各社が持つ多種多様な金属加工技術を医療分野に生かそうと、11年に前身の勉強会を発足し、13年に研究会に移行した。燕市が事務局を務め、現在、市内外の中小20社が参加する。 堀米医師とやりとりし、ローマン鈎の可動部の手前を二股にして、間からワイヤを通せるよう本体内部に溝を付けた。固定する部分の滑り止めや溝の長さ、表面の仕上げなども細かい修正を重ねた。チタン合金製で、強度も問題ないことが確認され、必要な法律の申請や意匠登録の手続きを済ませた。 堀米医師は完成した新たなローマン鈎について「ワイヤを一番よい場所に巻きやすく、一つの機器で済むので小さな傷で手術でき、患者さんの体の負担も少なくなる」と喜ぶ。「こういうものがあったら、という漠然とした思いが形になってうれしい。地場の企業との医工連携は開発にもスピード感があった」と話す。 燕市医療機器研究会の医療機器コーディネーターを務め、今回の製品の販売面も担うJMR(新潟市西蒲区)は「医療現場にはさまざまなニーズがある。燕三条には技術力のある企業が多く、今後もチャレンジを続けていきたい」とする。 三条市上須頃地区で、県が23年度の開院を目指す県央基幹病院は、医工連携が一つの特色とされ、病院内に専用スペースも設けられる計画となっている。燕労災病院での取り組みはそれに先駆けたもので、21年度もアイデア発表会などを開催する予定だ。