高性能半導体を用いた機器の製造・開発を手掛ける楢葉町の福島SiC応用技研(古久保雄二社長)は、体深部の腫瘍に対応可能な「多門照射式放射線がん治療装置」の臨床試験機器を開発した。京都府立医大で来年、治験を始める予定。浜通りで生まれた新たな医療機器が、未来の医学の力となる。同社の開発した機器は、ホウ素薬剤を患者のがん細胞に取り込み、中性子を照射してがん細胞のみを破壊する。機器には、従来の半導体(Si)に比べ高い電圧に耐え、電流を多く流すことのできるシリコンカーバイド半導体(SiC)が使われている。このため、装置の小型化が可能となり、広いスペースを必要としないため患者の六方面から体内に向けて中性子線を照射するのが可能となった。多方向からの照射により、体の表面から二十五センチの深さまで治療できるという。従来の製品より安価に導入できる。同社は二〇一四(平成二十六)年創業で、堀場製作所創業者の故堀場雅夫氏、電子部品メーカー「ローム」から出資を受けた技術系ベンチャー。国の津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金を受け、SiC半導体を用いた独自の放射線がん治療装置の研究・開発を進めてきた。社員五十人のうち八割が地元採用という。浜通りへの生産拠点の増設を検討しており、石本学取締役は「震災で大きな被害を受けた地域の再生に寄与したい」と話している。■31億円の第三者割当増資を達成「多門照射式放射線がん治療装置」の臨床試験機器開発に伴い、福島SiC応用技研は三十一億円の第三者割当増資を達成した。今後の治験や、ホウ素薬剤の開発に資金を充てる。国内のベンチャーキャピタル四社などが引受先となった。