起業支えるオール大阪 谷口達典さん


■リモハブ(大阪府吹田市)は自宅での心臓リハビリの実現を目指す遠隔医療のスタートアップだ。最高経営責任者(CEO)の谷口達典さん(39)は医師として活動するなかで起業した。関西から、人の健康寿命を延ばし社会に貢献する企業を育て上げようと意気込む。心臓の病気を抱えた患者の退院後のリハビリ継続率は7%と低い。リハビリは週3回、5カ月程度にわたって行う必要があり、わざわざ通院するのが面倒となってしまうケースが多い。継続率が低いこともあり、心不全の患者が退院して1年以内に再入院する割合は35%にのぼる。さらに最近は新型コロナウイルスの影響も出てきた。現在も週2回は医師として診療にあたっているが、患者が感染リスクがあると考えて病院に来ないようにしていると感じる。リモハブの装置はエクササイズバイクと通信用のタブレット端末などがセットになっている。患者は心拍数や心電図が分かるセンサーを取り付けてペダルをこぐ。すると、それらの情報が病院にいる看護師などに伝わる仕組みだ。タブレット端末越しに会話ができ、看護師は患者の様子を見ながらペダルの負荷の調整ができる。実証実験では継続率が9割を超えた。リハビリがうまくいけば、再入院の割合低下にもつながる。■心臓外科医だった父の影響で医師の道へ。キャリアを積みながら、医療機器への関心を深めていったことが起業につながった。父の背中を見て、人の命を救ったりサポートしたりする仕事は悪にはなり得ないと思い、医師を目指すようになった。大阪大学医学部に入学し、循環器内科医として励む中で、米スタンフォード大学で始まった医療機器関連の起業人材育成プログラム「バイオデザイン」の日本版の存在を知った。講義の初日に「君たちのゴールは起業することだ」と言われ250個のニーズを出す中で、心臓リハビリの継続率が低いという課題に焦点を当てた。企業ビジョンは「健康寿命の延伸」だ。高齢者は自立して生活でき、若者は介護負担がなくやりたいことができる社会をつくりたい。自分の足で歩き自分でご飯を食べられるのが、人の幸せの一つの形だ。リハビリなどの運動で予防できる病気は多く、健康な社会をつくっていきたい。■新型コロナの影響は、投資が盛んだったスタートアップ各社にも及んでいる。全体を見ると熱が冷めた面もある一方、医療系への注目度はいっそう高まっているとも感じている。新型コロナの感染拡大によって通院を避ける人が増えれば、遠隔診療への注目度は増す。リモハブの事業を評価し新たに出資しようという話も出てきている。関西には医療系スタートアップが育つ素地は十分にある。例えば、大阪大学医学部付属病院は大阪府下に数多くの関連施設を持っていて、実証実験をしやすい環境がある。7月中旬から始めた臨床試験(治験)は、治験の患者を募る点で同病院の未来医療センターの支援を受けている。多くのスタートアップが乱立する東京ではベンチャーキャピタルなどのリソースが分散するが、大阪では目立ちやすく協力を得やすい。これまで総額4億円を調達してきたが、その内訳には大阪大学ベンチャーキャピタル(吹田市)やハックベンチャーズ(大阪市)など大阪勢が名を連ねる。阪急阪神グループが展開するスタートアップ向けの会員制オフィス「GVH#5(ジーブイエイチ・ファイブ)」にも入居し、ミーティングやスタートアップの経営者同士の情報共有の拠点として活用している。リモハブはオール大阪で育ってきた会社だと思っている。(聞き手は黒田弁慶)

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