保健所職員の残業200時間超も 福岡県、3割が「過労死ライン」上回る


背景に保健所統廃合、職員削減

 福岡県内18カ所の保健所で4月に新型コロナウイルス感染症の対応に当たった職員177人のうち、3割に当たる48人が「過労死ライン」とされる100時間を上回る時間外労働(残業)をしていたことが分かった。北九州市では月200時間を超える職員もいた。

 コロナ関連業務に対応する常勤職員について、西日本新聞が各保健所を設置する福岡県(9カ所)、福岡市(7カ所)、北九州市(1カ所)、久留米市(同)に対し、3、4月の残業状況を尋ねた。

 3月の残業が月100時間以上だったのは北九州市の6人だけ。福岡県が「特定警戒都道府県」に指定された4月は県20人(対象職員の31%)▽福岡市14人(同28%)▽久留米市8人(同28%)▽北九州市6人(同16%)-だった。平均残業時間も福岡市は4月に3倍近くなり、県、久留米市もほぼ倍増。北九州市は3月からほぼ横ばいだった。

 残業が最も多かったのは北九州市の職員で3月に214時間、4月に206時間だった。それぞれ別の職員という。市の担当者は「冬に再び感染者が増えれば、季節性インフルエンザ対応と重なり、現場が混乱する恐れがある。できるだけ早い時期に、人員増などの態勢強化を検討したい」と話した。

識者「マンパワーの強化を」

 新型コロナウイルスの感染が急速に拡大した今春、各地の保健所では過重な時間外労働(残業)に追われた。専門家は背景について、コロナ対応業務の集中に加え、保健所の統廃合が進んだ公衆衛生行政の変化があると指摘。「大幅な統廃合や職員削減が裏目に出た。第2波に備え、人員を増やすなどの対応が必要だ」と指摘する。

 「熱が出たのは、何日前ですか?」

 6月上旬、福岡県糸島市の糸島保健福祉事務所(糸島保健所)。感染疑いがある人から相談を受ける「帰国者・接触者相談センター」の担当者が問い合わせに応じていた。最近は相談件数が減りつつあるものの、4月上旬には1日100件近くが寄せられ、回線がパンク状態となった。

 「夜中にすぐ対応が必要な場合もあり、一晩に2、3回は起こされた」。宮崎親所長が振り返る。

 保健所は、発熱患者が受診する医療機関を調整。職員は医療機関で採取したPCR検査の検体を受け取り、同県太宰府市の研究所に運搬する。感染が確認されると、発熱までの行動歴や健康状態の観察、濃厚接触者を調査する。感染者を入院先に搬送し、その車両を消毒する作業まで担う。

 「保健師などの専門職以外でもできる業務は、できるだけ事務職に割り振っている」と宮崎所長。ピーク時は感染症担当の職員4人に加え、別部署からも応援を集めて計8人態勢で乗り切ったという。

 県内では残業が200時間を超える職員もいた。なぜ、業務が逼迫(ひっぱく)したのか。

 「1990年代から進む保健所の統廃合や職員削減が背景にある」。県内で保健所長を務めた経験がある福岡国際医療福祉大の財津裕一教授(保健行政)は、こう指摘する。

 保健所を公衆衛生の第一線機関として位置付けた戦後の「保健所法」は、94年に「地域保健法」に改正。住民に密着した保健サービスは、感染症対策や精神保健などを除いて市町村に移管した。これに伴い全国に850カ所以上あった保健所は469カ所に減少。自治体の行財政改革で職員削減も進み、しわ寄せが強まった側面があるという。

 本格的に第2波が発生すれば、再び業務過多に陥りかねない。財津教授は「全国的に感染が拡大すれば、今の態勢で対応するのは厳しい。緊急時に備えてマンパワーを増やし、平時にも集団感染リスクの高い施設の指導にあてるなどの対応が必要だ」と話した。

(山下真)

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