味覚検査や「冷え」の測定…雪国で2時間、2000超の検査で健診する理由


身長・体重測定から自律神経、味覚検査や「冷え」の測定まで、検査項目はなんと2000以上。こんな異色の健康診断が青森県弘前市の岩木地区で続いている。冬は厳しい寒さに包まれる雪国の青森は、運動不足と塩分の取り過ぎといった生活習慣の影響もあり、県民の平均寿命が全国的にみて短いのが長年の課題だ。本州北端で続く「細かすぎる健康診断」の目的とは。9月中旬、弘前市内の公民館に早朝から住民が集まってきた。2005年に始まった「岩木健康増進プロジェクト」。健康状態や食習慣をたずねる問診に始まり、内臓脂肪や骨密度の検査など、多い人で26カ所のブースを回る。所要時間は約2時間に及ぶものの、農業の男性(72)は「ありがたいね。食べ過ぎないように気をつけるようになった」と話す。5年ごとに示される都道府県別の平均寿命で青森県は、男性が1975年から15年まで9回連続、女性が95年から5回連続で全国最下位となった。ただし、男性の平均寿命は10年から15年の5年間で1・39歳改善して全国3位の伸び幅となっている。プロジェクトが始まった背景には、こうした青森の事情も影響している。医療スタッフだけではなくプロジェクトに参画する大学関係者や企業も検査を担う。今年の検査では、医療品や食品を扱うクラシエホールディングスが手指の表面温度などから「冷え」の状態を調べる検査を、食品大手のハウス食品が甘みや酸味などの認知検査を担当した。ハウス食品の担当者は「高齢になって味覚が落ちると、ご飯をおいしく食べられなくなる。解決策を見つけられないか考えたい」と説明する。今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、予定より約4カ月遅れて実施され、感染防止の観点から検査項目も少なくした。それでも項目は1000程度ある。検査を実施する「弘前大COI」の中路重之拠点長は「プロジェクトは『短命県返上』に寄与すると思っている」と語る。異色の健康診断はこれまで、延べ2万人以上が受診した。生活習慣や社会的環境を網羅する膨大な「ビッグデータ」が蓄積されている。ビッグデータは匿名化したうえで大学や企業といった各機関が解析し、認知症や生活習慣病の予兆発見の方法や予防法の開発に活用する。これがプロジェクトの目的の一つだ。京都大と弘前大の研究チームは今年、人工知能(AI)を活用し、3年以内に動脈硬化や高血圧症など約20種類の病気にかかる可能性を予測するモデルを開発した。ビッグデータを分析して開発したモデルで、とくに糖尿病や認知症、慢性腎臓病(CKD)では高い精度が確保できているという。疾患発症を高い精度で予測できれば、予防につながる。例えば、腎機能が慢性的に低下する状態の総称を指すCKD。国内には1300万人以上の患者がいると推計される。その発症要因はストレスや糖尿病というように人によって異なるため、個別の要因がわかれば、その人に合う改善方針を提示できるようになる。弘前大COIの村下公一副拠点長は「予測だけではなく、予防に還元できるようにする必要がある。病気にならないためにどうすればいいのか。そこに一番注力している」と語る。【井川加菜美】

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