【主張】介護保険20年 支え手拡大の議論始めよ サービスの再構築が急務だ


介護保険制度が4月1日に20周年を迎える。家族の務めだった介護を、社会で支えるものへと転換することが制度の理念である。新たなサービスの整備は介護世帯の暮らしを変えた。だが、この間に介護をめぐる環境も様変わりした。特に政府が在宅医療の促進へと舵(かじ)を切ったことが介護に影響した。入院期間が短くなり、かなり状態の悪い人も家で過ごすようになったからだ。こうした変化に正面から向き合ってこなかったのが、この20年である。放置すれば、いずれ制度は立ち行かなくなる。抜本的な改革を急がなくてはならない。≪変化に向き合う改革を≫政府が在宅の旗を振るのは膨らむ一方の医療費を抑制するためである。だが、できるかぎり家にいたい、というのは多くの高齢者の切なる願いでもある。これをかなえる政策意図は妥当だ。そのためには医療と密接に連携した質の高い介護サービスを提供する必要がある。在宅酸素や経管栄養などの医療機器を使う人は多い。家での看取(みと)りも20年前にはほとんどなかった。制度創設時に想定していなかったことだ。変化はほかにもある。まず、認知症の増加だ。認知症の人が認知症の配偶者を介護する「認認介護」という言葉は20年前にはなかった。1人が複数の家族を介護する「多重介護」や、育児と介護が重なる「ダブルケア」という言葉もそうである。独り暮らしの高齢世帯も増えた。しかし、介護保険制度は、高齢者の身の回りを24時間支えるようにはできていない。介護職不足という深刻な問題もある。当初は主婦がパートで働いてくれると期待していたのかもしれないが、フルタイムで働く女性が増えている。必要な時間だけ細切れで働いてもらおうという発想だったのなら、無理があったと言わざるを得ない。こうした変化にどう対応すべきか。言うまでもなく、今の制度で際限なくサービスを拡充することはできない。介護財政は逼迫(ひっぱく)している。令和元年度の介護保険の総費用は約12兆円で20年前の3倍超である。65歳以上の保険料は今、月額平均約6千円で、20年後には9千円とも目される。これらを踏まえ、給付を効率化するとともに負担のありようを見直し、メリハリのある改革をすることが欠かせない。そのための視点は3つある。1つ目は支え手の拡大だ。介護保険料を納めているのは40歳以上の人である。対象年齢を引き下げて支え手を増やすことを真剣に考えるべきときではないか。例えば、障害福祉サービスと一体化するなどのやり方で年齢によらない普遍的サービスにする案は制度発足当初からあった。≪重度の在宅モデル作れ≫厚生労働省の専門部会で昨年、対象拡大を求める意見が出た。若い世代に広げる案のほか、働く高齢者を「現役世代」に組み込む案もあった。経済界には、支え手拡大に伴って企業負担分が増えることを懸念する声もあるが、まずは幅広く議論を始めてほしい。その過程では若年者のサービス利用も検討課題となろう。今は40歳未満の人は対象外だから、例えば若年のがん患者は介護サービスを使えない。こうした状況をどう見直していくかである。2つ目は、医療と介護の両方を必要とする重度者が最期まで暮らせるモデルを作ることだ。2年前に医療も介護も受けられる施設として「介護医療院」が創設されたが在宅のモデルも必要である。看護と介護を組み合わせた定額制サービスは今もあるが、あまりにも数が少ない。これを拡充して単身の高齢者も支えられるようにする。定額サービスが増えれば介護職の処遇改善にも資する。3つ目は給付の見直しだ。軽度者のサービスを効率化することは避けられない。外出支援や緩やかな見守りが失われないよう、いかにバランスを取るかである。政府は軽度者のサービスを自治体事業に移行している。NPO法人やボランティアの参加を促してコストを抑制する狙いだ。問題は自治体によって取り組みに差があることだ。これを解消しなくてはならない。軽度者に活躍の場ができればコミュニティーも活性化する。老後も生きがいをもって暮らせるかどうかの試金石だ。自治体には真剣に取り組んでほしい。

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