厚生労働省は31日、介護保険制度の見直しを巡る論点を社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の部会に示し、本格的な議論が始まった。所得が高い65歳以上の介護保険料や利用者負担を引き上げる一方、給付を抑えて「制度の持続可能性を高める」(厚労省)ための方策が並ぶ。部会では、委員から高齢者の生活実態に応じた丁寧な検討を求める声や、介護の質の低下を懸念する意見が出た。厚労省は年内に具体案をまとめる。【関連記事】介護保険制度は原則3年に1度見直しており、2024年度が改正の時期にあたる。急激な高齢化により介護が必要な高齢者と介護費用は増え続けている。65歳以上の保険料(全国平均)は2000年の制度開始時の2911円から6014円に増え、今後も増加する見込み。制度を維持するため、負担と給付の見直しが焦点となる。現在、介護保険の利用者の自己負担は原則1割だが、65歳以上で「一定以上の所得」がある人は2割、「現役並みの所得」がある人は3割負担となっている。厚労省の狙いは、所得に応じた「応能負担」の強化で、所得基準を見直し、2割負担、3割負担となる人を増やしたい考えだ。また、65歳以上の保険料負担は、現在も所得に応じて支払う額が決められているが、負担可能な人にはより多く負担してもらうような基準になるように検討を進める。負担増の一方で、介護の質の低下につながりかねない論点も盛り込まれている。要介護1・2の人への訪問介護などのサービスは、介護保険から自治体が実施する事業への移行を検討する。国の一律の基準から外れ、NPOやボランティアなど多様な主体がサービスを提供できるようになる。委員からは、応能負担の必要性を認める声の一方で、高齢者の生活実態や物価高騰などの社会情勢を把握した上で、丁寧な議論を求める意見も出た。自治体への移行については「市町村で受け皿ができている状況ではない」などと反対が相次いだが、「保険給付の増加を抑制する観点から移行すべきだ」という意見もあった。(井上峻輔)