アップルウオッチの心電図アプリ、脳卒中要因の予兆検知


米アップルは腕時計型端末「アップルウオッチ」で心電図機能の提供を日本で始めた。一般消費者が購入できる機器に心電図計測機能が搭載されるのは国内で初めて。不整脈の一種である心房細動の兆候を検出するのに役立つといい、早めの受診を促して脳卒中などを防ぐ。米国では2018年12月に提供を始めており、日本でも約2年遅れながら注目を集めている。アップルウオッチ向けの最新基本ソフト(OS)を1月27日に配信したのに合わせて、心電図アプリを解禁した。18年9月発売の「シリーズ4」以降で廉価版の「SE」を除く機種なら心電図機能を使えるようになった。使い方は難しくない。アプリを開いた状態で端末を装着していない手の指を「デジタルクラウン」と呼ぶつまみ部にあてると回路が機能し、心臓を通る電気信号を記録。30秒後に心房細動の兆候があるかどうかの判定結果を表示する。アプリに記録した測定結果はiPhoneの専用アプリに保存され、PDFファイルを出力して医師と共有することもできる。得られる心電図は、I(いち)誘導式と呼ばれる簡易的な計測方法によるものに近い。ただ、精度は医療機関で使われる標準的な心電図の計測法と比べてほぼ遜色ない。600人規模の臨床試験では、標準的な計測法と比べて心房細動の兆候を正しく捉える精度が98.3%、兆候がないことを正しく判定する精度は99.6%だったという。心房細動の兆候を示す不規則な心拍リズムを検出し、利用者に通知する機能も解禁した。この機能は17年9月発売の「シリーズ3」以降の機種で使える。発光ダイオード(LED)と受光素子から成るアップルウオッチの光学式心拍センサーを使う。65分以上をかけて心拍リズムを5度計測し、心房細動の兆候を示す不規則な心拍リズムがないかを判定する。これら2つの機能は医師の診断向けや、心房細動の患者の日常生活のデータを把握する用途は想定していない。あくまで自覚症状のない人の心房細動の兆候を見つけ、早めの受診を促す狙いだ。日本では診断がついていない人を含めて心房細動の患者は100万人超と推定され、脳卒中の大きな要因にもなっている。アップルは心電図アプリについて20年9月に厚労省の承認を受けたが、同省は一般消費者に適切に利用してもらうための体制構築を求めていた。使い方に関する電話問い合わせ窓口の準備などで、サービス開始までに承認取得から4カ月かかったもようだ。コロナ禍で健診受診者が減っている中、家庭で心房細動の兆候に気づかせてくれる今回のアプリの意義は大きい。アップルは1月中旬、米バイオジェンとアップルウオッチやiPhoneで認知症の兆候を捉える研究を始めると発表した。日常から身につけるデバイスがさまざまな病気の「見張り役」として活躍する時代を実感させる動きだ。(企業報道部 大下淳一)

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