カイコのさなぎに寄生するキノコ「カイコ冬虫夏草(とうちゅうかそう)」に含まれる「ナトリード」という物質が、認知症やアルツハイマー病などの改善に寄与することがわかったと、岩手大発のベンチャー企業「バイオコクーン研究所」(盛岡市)が発表した。今後、同病のほか、パーキンソン病や統合失調症といった脳の疾患への治療に活用できる可能性があるとしている。研究は岩手大のほか、大阪市立大、九州大、岩手医大と共同で行い、研究成果が米科学誌「プロスワン」(電子版)に1月28日(日本時間)に掲載された。同研究所は2010年、カイコ冬虫夏草からの抽出物を老いたマウスに与えたところ、記憶をつかさどる脳の「海馬」にできた傷が修復されたと発表。カイコ冬虫夏草に起因物質が含まれるのを確信して研究を進め、13年にナトリードと特定した。その後、約6年間にわたった研究で、ナトリードに神経細胞の成長を促進させるなどの効果があることを突き止めた。アルツハイマー病は主に、脳細胞の一つ「ミクログリア」が炎症を起こし、たんぱく質「アミロイドβ(ベータ)」が過度に蓄積して神経細胞が死滅することで引き起こされる。今回の研究で、ナトリードには、神経細胞の成長を促すほか、ミクログリアの炎症を抑える作用があることがわかった。神経細胞に栄養を補給する脳細胞の一つ「アストロサイト」を増殖させる作用もあるという。16年に岩手医大と共同で行った試験では、ナトリードが含まれるカイコ冬虫夏草の粉末を認知症患者10人に3か月間飲んでもらった結果、10人は「アセチルコリン」という神経伝達物質の数値が、偽薬を飲んでもらった別の10人よりも上昇した。患者の中には、小銭を数えられるようになったり、曜日を認識できるようになったりした人もみられたという。認知症の改善に関するこれまでの研究は、神経細胞など個々の細胞に着目したものが多かったが、今回の研究は、ナトリードが神経細胞のほか、ミクログリアやアストロサイトといった「グリア細胞」と呼ばれる脳細胞に作用することがわかった点に意義があるという。1月28日に記者会見した同研究所の鈴木幸一さん(74)(岩手大名誉教授)は「ナトリードは、認知症のほか、パーキンソン病や統合失調症などの治療に応用できるのではないか。世界中の研究者とコミュニティーをつくり、この価値を広めたい」と話した。