次世代がん放射線治療、効果アップの新薬剤開発


【岡山】がん細胞を狙い撃ちする新たな放射線治療「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」の効果を上げる薬剤を、岡山大と近畿大、京都大などの研究グループが開発した。簡単、安価に製造できるうえ、治療の安全性と効果の大幅な向上が見込めるとしている。BNCTは、ホウ素と放射線の一種である中性子線を利用。ホウ素の薬剤を患者に注射し、がん細胞がこれを取り込んだところへ、中性子線を当てて破壊する。ホウ素が取り込まれていない正常細胞には影響せず、副作用が少ない。悪性脳腫瘍(しゅよう)など他の治療が難しいがんに対する次世代の治療法として期待され、日本が臨床、研究ともにトップを走る。昨年6月、再発頭頸部(とうけいぶ)がん治療に公的医療保険が使えるようになった。治療の鍵を握るのが、がん細胞だけに効率よくホウ素を入れるホウ素剤。現在使われている「BPA」はがん細胞表面の特定のたんぱく質を経由し、細胞に取り込まれる。だがBPAは、このたんぱく質が少ないがん細胞では効きにくいという課題があった。岡山大中性子医療研究センターの道上宏之准教授らのチームは、BNCT開発初期に使われた「BSH」という別のホウ素剤に注目。BSHをアミノ酸で作るナノチューブにくっつけると、がん細胞だけに効率よく取り込まれることを新たに突き止めた。ナノチューブとBSHの複合体は分子が大きいため、血管壁がもろいがん組織にだけ到達するという。マウス実験では悪性脳腫瘍部分だけにこの複合体が集積。細胞実験の結果、複合体を取り込んだがん細胞に中性子線を照射すると、ほとんどを死滅させる効果があった。がん細胞内に入った複合体は、核周辺に集まっていることも確認。これらが高い破壊効果につながっているという。作り方は簡単で、ナノチューブの素とBSHを特定の濃度で溶かし混ぜるだけ。ナノチューブはすでに安全性が確認され、他の病気の治療薬として臨床試験も進んでいる。道上准教授は今回の研究成果について「現在使われているホウ素剤とは異なるルートでがん細胞に侵入するので、がん治療に新たな道を開く可能性がある」と話す。成果は薬学分野の国際学会誌に掲載された。(中村通子)◇BNCT ホウ素の同位体10Bは、中性子とぶつかると細胞を破壊するα線を出す。α線の飛ぶ距離は、細胞1個の半径程度とごく短い。10Bをがん細胞の中に入れて中性子線を当てれば、がん細胞の内部で発生したα線がその細胞だけを破壊する、というアイデアから生まれた=図。10Bをがん細胞だけに効率よく導入する薬剤や技術が重要だ。

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