アクセントも修正 読書支援サービスに“強い味方” ポニーキャニオンが読み上げアプリ開発


映像・音楽ソフトメーカーのポニーキャニオンが来年2月に、視覚障害者向けの読書支援サービスをスタートさせる。加齢による目の衰えなどで読書を楽しめなくなった人や学習障害者にもアプローチするもので、読書に特化した読み上げアプリケーションは日本で初めてという。読書支援サービスの“強い味方”になるか。   (文化部 伊藤洋一)「革新的な仕組み」ポニーキャニオンが打ち出す「YourEyes」(ユアアイズ)」と名付けられたサービスは、光学文字認識(OCR)技術とテキスト音声合成(TTS)技術を組み合わせたもの。スマートフォンを利用する同様のアプリはすでにあるが、いかにもコンピューターが読んでいる聞きづらさが難点。ユアアイズは1980年代以降に国内で出版された180万点に対応し、人間の朗読に近いスムーズな読み上げが特徴だ。同社執行役員の吉田周作経営本部長は「読むことが困難な方にも、読書というエンターテインメントを楽しんでいただける革新的な仕組みができた」と話す。使用手順はこうだ。(1)ポータルサイトでユーザー登録(2)スマートフォンにアプリをダウンロード(3)書面を「ユアアイズボックス」にセットして1ページずつ撮影(4)スマートフォンが文章を読み上げる-。3種類あるボイスキャラクター(女声2、男声1)から選んで、聞くことができる。「最大の特徴はOCRがテキストを誤変換しても、読み上げデータを修正しサーバーに登録すれば、以後は、その書籍は自然な読み上げで正しく朗読されること」と説明するのは同社開発責任者の黒沢格(いたる)さん。OCR技術だけでは音訓の読み違いや、文節を無視した朗読もありうる。これを修正するのがボランティアツールだ。視覚障害者ではない人がスマホなどで、所持する書籍の中身を撮影。音声で再生して、読み間違いやおかしなアクセントがあれば修正したり、語句と語句の間(ま)を追加したりするなど視覚障害者が聞きやすい状態に調整する。それを「ユアアイズ」側に申請すると、審査を経て採用される手はずだ。「喜怒哀楽の感情表現も加えられ、新しい読書法を提供できる。多くのボランティアの方に参加いただき、正しく朗読する作品を増やしていきたい」と黒沢さんは話す。全盲など視覚に難があるため障害者手帳を持つのは全国で約31万人(平成28年厚生労働省調べ)だが、「ロービジョン」とよばれる生活に支障が出る弱視まで含めれば、約164万人いるとされる(19年、日本眼科医会調べ)。「外界からの情報の80~90%は目を通して得ているといわれる。本は資産だが(視覚障害の)私にとっては紙という材質の束にすぎない。それが情報に変わり、視覚障害者の自律的な読書につながるこのシステムには期待している」そう話すのは自身も全盲で、盲導犬についての著書もある「公共図書館で働く視覚障害職員の会」の松井進事務局長だ。千葉県立図書館に勤務する松井さんによれば、点字を読める視覚障害者は全体の1割程度という。それ以外の人が頼りにするのは、図書館など300以上の施設が加盟するサピエ図書館だ。知識を意味するラテン語の「サピエンティア」に由来するこの図書館では、点訳データや録音図書などを利用できる。ただ、本を朗読するボランティアを養成する必要があり、完成までに1年程度かかる長編もあるという。「読みたいと思ったときに読めない問題を解決してくれるのでは。情報弱者(の視覚障害者)にはありがたい存在になりそう」と、松井さんは期待を寄せている。視覚障害者らの読書環境は改善されつつある。昨年6月には「読書バリアフリー法」が成立、施行された。視覚障害者らが購入したり借りたりする書籍の量的拡大と質的向上を、電子書籍に携わる事業者らに求めているほか、図書館側にも利用しやすい環境の整備を促している。黒沢さんは「点字図書館以外の公共図書館にも導入を検討してもらえれば」と話す。「あなたの目に代わって読書を楽しんでいただきたい」という思いを込めた「ユアアイズ」は、150万人いると推定される学習障害者や、加齢などが原因で読書機会が減少した層も対象にする。アプリの利用料金は個人で月額500円、図書館など法人・事業所は2500円を想定。YourEyesボックスは6000円。

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