救急隊や医療機関が正確、迅速に傷病者の情報共有ができるよう、千葉大発のベンチャー企業「Smart(スマート)119」(千葉市)が、119番の内容などを音声で自動入力し、関係機関で共有できるシステムを開発した。千葉市消防局で導入されており、総務省消防庁によると全国でも珍しいシステム。患者の「たらい回し」防止が期待でき、救急隊の負担軽減にもつながる。(太田理英子)通常の救急活動では、119番を受ける消防指令センターから救急隊、医療機関へとリレー方式で傷病者の情報を伝え、それぞれ紙などに記録。現場に到着した救急隊は症状や意識レベルなどを確認し、1件ずつ搬送先を探す。同社のシステムでは、タブレット端末を使い、119番の通報内容や現場で救急隊が確認した情報を音声で自動入力。手入力でかかる時間を約8割短縮でき、救急隊は処置や搬送に専念しやすくなる。同社の実験では、音声から文字への変換精度は91.6%。誤変換は入力内容を補正して伝達している。入力内容を搬送先候補の複数の医療機関に一斉送信することで、受け入れ先を迅速に見つけられる。救急隊が現場でタブレット端末のカメラでけがの状態などを撮影して送信できるため、医療機関側は早めに態勢を整えやすい。システムは7月から、千葉市消防局の救急車全25台、消防共同指令センター、市内9病院で利用中。市消防局の担当者は「音声入力の方が早く、慣れて軌道に乗れば効率化できそう。写真は、言葉よりも正確に伝わりやすい」と話す。同社の最高経営責任者で、千葉大大学院医学研究院救急集中治療医学の中田孝明教授は、自らも同大医学部付属病院で救急医療に携わる。「スマートフォンが普及している時代なのに、医療現場はアナログで不便なことが多い。不十分な情報はたらい回しの原因になってきた」と話す。2016年から本格的にこのシステムの開発に取り組み、現在特許を出願している。同社は、緊急度と重症度が高い脳卒中、心筋梗塞の可能性を人工知能(AI)で予測診断する機能も近くシステムに導入する。タブレット端末に言語障害やまひの程度といった症状などを入力すると、2つの疾病の確率が示される仕組み。的確な搬送先の選定や対処に役立つ。中田教授は現場のニーズに応えながら新たな開発を進めるといい、「全国に効率的な救急システムを浸透させ、患者が安心して医療を受けられるようにしたい」と意気込む。全国の救急車の出動件数と搬送人員数は2009年から増え続けている。消防庁によると、昨年度の出動件数(速報値)は約664万件、搬送人員(同)は約598万人で、ともに過去最多を更新。現場で搬送不要と判断されても1度出動すれば報告が必要で、出動が多くなるほど救急隊の事務作業が増す。こうした負担を減らそうと、各地の消防本部で情報通信技術(ICT)を活用する動きが広がっている。手入力を省くためにタブレット端末の利用が増えているほか、市民が119番する際に現場の動画を送信できるシステムを利用するケースなどもある。だが自治体の財政状況などによって差があり、消防庁によると、19年8月時点で全国の消防本部の約3割はICTを活用できる機器が未配備となっている。