ICU、43道府県で不足の恐れ コロナ重症者ピーク時


新型コロナウイルスの重症者を救命する病院の集中治療室(ICU)が、患者の増加で機能不全に陥る恐れが高まっている。国の重症患者数の推計に基づいて分析すると、ピーク時には43道府県で重症者数がICU病床数を上回る可能性があることが分かった。日本は海外より人口当たりのICUが少なく、人材も不足している。施設の集約や広域連携といった対策が急務だ。ICUは専任の医師や看護師が手厚く配置され、状態が悪化した患者の救命に24時間体制で対応する。国が示しているピーク時の重症者数推計と、医療情報会社「日本アルトマーク」(東京・港)が調査した都道府県別のICU病床数を比べたところ、43道府県で重症者数の方が多くなることが分かった。東京、岡山、福岡、沖縄はICU病床数が上回った。ただ別の病気で使用中なら新型コロナ用に使える数は減る。ピークの患者数が推計より上振れする可能性もあり、態勢は脆弱なのが実情だ。日本は海外に比べてICUが少ない。ICUでの治療は患者への身体的負担が大きく、高齢者は対象外となることもあるため、高齢化による需要減を見越してこのところ削減が進んできた。厚生労働省によると、2018年にICUの基準を満たしたとして届け出があったのは635病院。14年の685病院から50病院が撤退した。人口10万人あたりのICU病床数は日本は約5床にとどまる。米国立バイオテクノロジー情報センターなどによると、米国は約35床、ドイツは約30床に上る。多くの死者が出ているフランスやイタリア(約12床)、スペイン(約10床)でも日本より多い。日本には専門医も少ない。日本集中治療医学会が認定した集中治療専門医は2019年4月時点で約1820人。ICUのある病院だけでみると1病院あたり平均約3人だが、ICU専従の専門医は少ないという。人工肺(エクモ)は約1400台あるものの、専門人材不足のため同時利用できるのは300床分とみられる。専門医が少ない理由を「大学医学部の診療科別医局の影響がある」と話すのは専門医の一人で、オーストラリアで集中治療医の経験がある亀田総合病院(千葉県鴨川市)の林淑朗・集中治療科部長だ。「日本では個別の診療科の医師がICUでも継続して治療するシステム(オープンICU)がほとんどで、専門医が育ちにくい」と、”縦割りICU”の弊害を指摘する。林部長によると、海外では集中治療専門医を中心とする多職種のチームが共同で治療するシステム(クローズドICU)が主流という。「日本の集中治療の体制はパンデミック(世界的流行)には大変脆弱と言わざるを得ない。集中医療体制の崩壊は非常に早く訪れる」。日本集中治療医学会の西田修理事長は、3月末時点でいずれも数万人規模の感染者を出しながら死亡率が1.1%のドイツと、11.7%のイタリアの差について「ICU体制の違い」と指摘する。対策を進めようと、不足する人材の確保を図る動きは出ている。日本看護協会は再就職を検討中の看護師約5万6千人の早期復職を呼びかけている。人工肺では、臨床経験が豊富な医師で構成する「エクモネット」が研修や運用を支援し、800床で使える態勢を目指している。ただ、人材支援だけでは爆発的な患者の急増に対応しきれない。高度な設備をもつICUは急造が難しい。既存施設を効率運用することが重要で、ICUを備えた特定の病院を新型コロナの「専門病院」に指定し、院内感染のリスクを下げつつ専門人材や機器を集約する対応が求められる。政府はこうした専門病院の設置の検討を自治体に求めているが、目の前の患者急増に追われる地域では思うように対応が進んでいない。感染のピーク時期は地域ごとに違うとみられる。ピークの地域からそれ以外の地域に搬送して対処する広域連携も重要になる。病院や地域の単位で役割分担の検討を急ぐ必要がある。(社会保障エディター 前村聡)

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