診療データの共有簡単に 米Google特許の中身


EHRは患者のデータをまとめ、保存する手段として米医療機関の間で普及しつつある。2017年時点では開業医の9割近くがEHRを導入している。EHRのデータで特に重要なのが、患者の病歴から診断、治療計画に至るまであらゆる情報を提供するカルテだ。だが、医療専門家のカルテの書き方はバラバラだ。EHRを参照して診断を下す医師は千差万別の書式のカルテを判読しなくてはならず、診断の際の難題となっている。EHRの記録は手書きのカルテに基づいている場合もあれば、音声メモで構成されていることもある。まとめ方や使われている専門用語の種類も様々で、略語を使う医師もいれば、その病院や自分にしかわからない暗号のような言葉を使う医師もいる。きちんと整理されたカルテがないために情報の見落としやデータ重複が起き、患者のアウトカム(臨床成果)に影響が及ぶ場合もある。米グーグルが最近取得した特許「再帰型ニューラルネットワーク(RNN)を活用したカルテの処理」は、医師が的確な診断を下し、一人一人の患者に応じた治療を提供できるよう、深層学習の一種であるRNNを活用して整理されていないカルテを編集、体系化、判読することにより文書化する。今回のリポートでは、この新たな特許の仕組みや、それがグーグルの未来にとってどんな意味があるのかについて取り上げる。■仕組みグーグルの特許では、機械学習のニューラルネットワークを使ってカルテから患者のデータを取り込み、そのデータを解釈し、患者の診断や将来の健康リスクに対する所見を示す「未来の健康予測システム」について説明している。このシステムは誤診を減らす可能性がある。誤診は医療ミスの主な構成要素であり、医療ミスは米国で3番目に多い死因となっている。救急医療は医師が症状を観察して患者のEHRから抜き出した病歴を分析し、速やかに診断を下さなくてはならず、誤診の割合が最も高い分野の一つだ。誤診が起きるのはきちんと整理されたカルテがなく、治療計画や病歴などの医療データを見落とすのが一因だ。急患は普段かかっている医療機関に搬送されるとは限らず、医療記録であるEHRは、他の医療機関からのアクセスが制限されることも多い。救急医療は時間に余裕がないのも誤診が起きる一因だ。例えば、腰痛に苦しむ急患は、その症状から座骨神経痛と診断される可能性がある。この場合には、グーグルのシステムは患者のEHRから病歴を抜き出し、様々なカルテから抜き出したそのデータを「所見埋め込み(ニューラルネットワークが認識し、処理できる規定の変数)」に変換する。システムは別の医療機関のカルテから、たとえば家族の病歴に動脈瘤(りゅう)を発見し、その患者は動脈瘤が起こるリスクが通常よりも高いと指摘する。また、各データポイントは適宜加重されて様々な健康状況が発生するリスクを計算するために使われ、医師の診断精度を向上させる可能性もある。医師はその患者には特定の病気が発生するリスクが高いと認識し、既存データから速やかに潜在的原因を突き止めることができる。このシステムは予防治療にも役立つ。例えば、かかりつけ医が患者にカルテに基づいて様々な病気のリスク要因を示すためにこのネットワークを導入すれば、心臓発作や脳卒中など特定の事態が将来起きる可能性を予測できるようになる。そうすれば減塩食を勧めたり特定の処方薬の服用を求めたりするなど、より予防的な判断を下せるようになり、長期的に患者の発病リスクを抑えられる可能性がある。■これが重要な理由患者の完全な記録を入手できない医師は中途半端や間違った診断を下し、結果的に患者の治療計画が不十分になる恐れがある。グーグルが特許で説明した機械学習システムは、診断プロセスを単純化して補い、診断の精度を向上させることで、医師が患者の特定の病気を診断できるよう支援する。このシステムは略語や暗号のような表現など医師によって異なるカルテの書き方を標準化し、カルテを自動分析することで、病気の重大な兆候を抽出しやすくする可能性がある。さらに、患者の医療記録を完全にオンライン化する上で大きな障害となっているEHRの相互運用性の実現にも役立つ。医師を対象にEHRの使い勝手を向上させようとしているのはグーグルだけではない。米アップルもスマートフォン「iPhone」のアプリ「ヘルスケア」を通じて、患者が一部の医療機関から自分の医療記録を入手できるようにしている。中小勢では、米スキ(Suki)が音声アシスタントを活用して診療時の医師の音声を文書化し、医師は質の高い医療の提供に集中できるようにしている。グーグルの特許はまだ実用化されていないが、データと患者のアウトカムを巡る同社の医療戦略を浮き彫りにしている。

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