AIMネコ薬、実用化へ 実態調査への参加を募集―AIM医学研究所・宮崎徹所長インタビュー


一般社団法人AIM医学研究所(略称IAM)の宮崎徹所長は、30年以上にわたる医学の基礎研究の中で、動物の血液中に高い濃度で存在するタンパク質「AIM」を発見、AIMにさまざまな病気の症状を改善する効果があることを明らかにした。宮崎所長らの研究グループは、ネコ科動物のほとんどが加齢とともに慢性腎臓病を発症することに着目、その原因がネコ科動物のAIMが十分に働かないことにあると突き止めた。慢性腎臓病は人間にも患者は多いが、有効な治療法は発見されていない。宮崎所長らは体外で正常なAIMタンパク質を大量生産し、それを薬として投与することで、重度腎臓病の患者の状態を著しく向上させることを目指した研究を進めている。特にネコ用のAIM動物薬は人間用より先行して開発が進み、実用化に向けたスケジュールが見える段階に達している。宮崎所長は現在、ネコの慢性腎臓病の実態調査に取り組んでいる。現状と今後の見通しについて話を聞いた。―宮崎所長は獣医師ではなく、人間の病気を診る医師なのに、なぜネコの慢性腎臓病の研究をされているのでしょうか。私は、人間の体内に侵入した細菌やウイルスなどを攻撃する免疫の仕組みを研究する中で、血液中のAIMが代謝によって生成された老廃物などの「体内ゴミ」を選択的に排除し、健康を維持しようとする働きに気付きました。AIMは普段は血中を静かに漂っていますが、体内ゴミを見つけると活性化して、そのゴミを「掃除」しに向かいます。人間以外の動物もAIMは持っているので、幾つかの動物の血液を調べたところ、ネコだけはAIMが活性化しない事実が分かり、そこに強い興味を持ちました。そして、効果的な治療法のない慢性腎臓病に苦しむのは、人間もネコも同じだと強く感じたのです。―「AIMが働かない」と、慢性腎臓病になるのですか。重要な要因の一つと考えられます。ネコのAIMは、アミノ酸配列の問題で先天的にほとんど活性化しないため、高齢になると極めて高い確率で慢性腎臓病になります。大型のネコ科動物のトラ、ライオン、チーターも同じで、そのほとんどが慢性腎臓病になり、多くが腎不全で亡くなります。これは、AIMが活性化せず、うまく働かないことが、慢性腎臓病の発症と病状の進行に深く関わっている事実を明確に示しています。腎臓は血液中の老廃物をろ過する臓器で、体内ゴミがたまりやすい場所です。AIMが活性化せずにゴミ掃除がうまくできないと、たまったゴミが炎症を引き起こし、それが腎機能を低下させていくと考えられます。掃除されず放置された体内ゴミを火種として燃え続ける山火事のようなもので、山が次第にはげ山になるように、腎臓も徐々に破壊されていくわけです。―ネコ薬の開発はどのような状況でしょうか。ネコ薬は既に完成していて、間もなく臨床試験(治験)を開始できる見込みです。今年中に治験を完了し、来年には国の承認申請を行う予定で進めています。―研究所とは別に株式会社もつくられたのですね。はい、2022年に発足したAIM医学研究所では、私が東大医学部に在籍当時に始めたAIMのネコ薬・人薬の開発を加速し、治験薬の完成を目指してきました。また、さまざまな病気に対するAIMの治療効果やそのメカニズム、あるいはネコのAIMが活性化しない理由やAIMの立体構造の解明など、AIM薬の効果を立証するための基礎研究を続けています。いよいよネコ薬の治験薬が完成し、人薬の治験薬も完成が近くなってきましたので、株式会社「IAM CAT」を23年夏に設立し、そこで資金調達を行って治験を最速で進める準備に取りかかりました。―AIM医学研究所と株式会社のIAM CATは完全に別組織なのですか。はい。研究機関であるAIM医学研究所は純粋な基礎研究に重心を置いていて、病気の本質を突き詰め、それにAIMがどのようなメカニズムで治療効果を発揮するのかを中心に研究を進めます。研究所の財源は、大学と同じように国や民間の研究助成金と寄付金です。一方で、IAM CATは治験を推進して薬を一刻も早く世に出すための製薬ベンチャーです。治験にはたくさんの資金が必要なので、会社組織にしてビジネスを展開する方が合理的だと考えました。―研究者や医師がそのようなビジネスもするのは珍しいですね。ビジネスもですが、創薬(薬をつくること)を研究者が自ら行うのも珍しいと思います。―なぜそのような方法を取るのですか。その方が速いからです。どこか大きな企業に任せた場合、相手の意思決定に時間がかかりますし、事業的なリスクにも極めて慎重になります。自分たちで事業を進めれば、リスクをすべて背負う代わりに、物事を早く進められます。それに、何と言ってもAIMは私が25年前に発見した自分の子どものようなものですから、AIMのことは誰よりもよく知っています。他の薬はつくれなくても、AIMを薬にするのは、私が適任だと思いますよ(笑)。―IAM CATがネコの慢性腎臓病に関する調査を行うため、血液検査に参加してくれるネコを募集されていますね。(ネコの慢性腎臓病に関する調査についてはい、この調査自体は治験ではないのですが、今後の治験に向け、特定のステージ(進行度)の腎臓病のネコがどの程度いるかという実態をあらかじめ知るのが目的です。私たちは、新しい血液のマーカーを開発し、ネコの慢性腎臓病のステージをより細かく分類することに成功しました。できるだけ多くのネコが調査に参加していただけるとうれしく思います。

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