患者搬送、「民間救急」コロナで奔走…消防機関の負担減


新型コロナウイルスの感染拡大で、民間の事業者が消防機関に代わって患者を搬送する「民間救急」の需要が高まっている。搬送件数は3月以降の感染急拡大に伴い増加しており、消防機関の負担軽減に寄与している。民間救急の正式名称は「患者等搬送事業者」。1989年に制度化され、全国の消防機関が1362事業者(昨年4月時点)を認定する。搬送に使う車に応急講習を受けた2人以上を乗車させることなどが認定条件だ。119番通報を受けて患者を搬送するのは市町村の消防局や消防組合などの役割だが、民間救急は病院などから依頼を受け、緊急性の低い患者の搬送に当たる。コロナの感染拡大前は、患者の転院搬送のほか、イベント会場で患者が出た時に備えた待機、介護タクシーなどの利用が多くを占めていた。コロナ感染者の場合、重症患者は自治体の消防署などが搬送するが、中等症、軽症者の病院搬送や転院、宿泊療養施設への移動では、民間救急を利用する自治体も多い。大阪市旭区の民間救急「関西MEDICAL民間救急」は昨年3月以降、大阪府のほか、大阪、堺など計7市とコロナ感染患者の搬送契約を締結。1件あたりの搬送費用5万~10万円は全額公費でまかなわれる。畔元隆彰社長(38)は「コロナの搬送は、車内の消毒や防護服の着用など、準備に時間がかかる。民間が協力すれば、消防機関の負担減につながる」という。同社はコロナ患者の搬送で多い時は救急車8台を使用し、今年1月に645件を搬送。2月にいったん401件まで減ったが、3月中旬以降の感染拡大に伴い増え始め、3月は510件。4月に入ってからも1日25件程度を搬送する。同社の救急救命士・高田涼太さん(30)は「一見状態が悪くなさそうでも、特に高齢者の場合は容体が急変することがある。搬送は緊張の連続」と話す。畔元社長によると、3月中旬以降は若者の患者が増加。血中酸素濃度が低く重症化の兆候があるため自治体の消防機関に引き継ぐ患者も増えているといい、「変異したウイルスの影響とみられ、現場は緊張感が高まっている」という。別の民間救急「西日本民間救急」(大阪市旭区)は府と吹田市と契約。患者がマンションに住んでいる場合、エレベーターなどの共有部分を消毒しているといい、救急救命士の林真沙史さん(26)は「二次感染を発生させないために気を抜けない」と話す。大阪府の担当者は「コロナ患者をすべて消防機関が搬送すれば、通常の救急搬送を圧迫する。民間救急が患者を搬送するメリットは大きい」と指摘する。課題もある。民間救急の感染防止策は事業者に任せられており、行政の指針などはない。民間救急業者が加盟する「全民救 患者搬送協会」によると、防護服などの十分な対策を行わないまま低料金で患者の搬送を請け負う業者もいるといい、協会の担当者は「事業者や患者を守るため、行政が感染防止の指針を示してほしい」と指摘する。

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